米国産牛肉の輸入再々開が決まった。05年12月に輸入が解禁された後、特定危険部位である背骨の混入という初歩的なミスで再禁止された米国産牛肉の輸入再々開である。しかし、米国産牛肉に対する日本の消費者の不信はなおも強く、日本市場への復帰は必ずしも容易ではない。
米国産牛肉は、米国におけるBSE(牛海綿状脳症)の発生で03年12月に輸入禁止された。その後、日本のBSE検査方法が見直され、特定危険部位が除去された生後20カ月以下の牛は全頭検査の対象外とされた。米国産牛肉にも同様の基準が適用され、条件を満たす牛肉の輸入が解禁された。にもかかわらず、背骨の混入で再禁止された後の輸入再々開である。
自由貿易を標榜(ひょうぼう)する日本が、国産牛肉と同程度の安全が確認された米国産牛肉の輸入を認めるのは当然である。しかし、さまざまな国内論議の末に輸入再開したにもかかわらず、あまりにも初歩的なミスで輸入再禁止に至った経過に、日本の消費者は不信を持っている。米国の牛肉輸出関連業者は、日本の消費者の不安を本当に理解しているのだろうか、という不信である。
また、米国産牛肉の輸入問題を食の安全の問題ととらえず、通商問題のように扱って日本に輸入再開の圧力を加え続けた米当局の姿勢に対する不信もある。
消費者の信頼がなければ、食品業者も米国産牛肉を使用したり販売することを躊躇(ちゅうちょ)する。米国産牛肉がかつてのように日本の市場に受け入れられるか否かは、日本の消費者の判断によって決まる。すでに日本の消費者は、米国産牛肉の長期にわたる不在に慣れており、豪州産などが市場に浸透している。米当局は、圧力をかければ日本市場を回復できるなどという思い込みはすべきではない。
輸入再々開に当たって日本は、米国の対日輸出施設を事前査察した。査察の結果は今後、国内の説明会で報告される。この説明会が日本の消費者の信頼を得られるか否かの第一歩になる。さらに日本の消費者の広範な信頼を得るためには、米国の輸出業者や日本の食品業界の努力が必要とされる。米国産牛肉の輸入再々開は、米国産牛肉の日本市場への浸透をただちに意味するものではない。
BSE問題に関する日本政府の取り組みに対して、消費者の不安があることも指摘しなければならない。欧米ではすでに禁止されている、特定危険部位の脳組織が食肉を汚染する可能性があるピッシングという処理方法が、日本ではなお続けられている。同様に特定危険部位の背根神経節が適切に除去されているのかも不透明だ。扁桃(へんとう)の除去基準がまちまちだという指摘もある。
BSEの発生とその対応の失敗で、農水省と厚生労働省は業界保護から消費者の安全確保に姿勢を転換した。それなのに、すでに欧米では対応済みの特定危険部位の扱いについて対処が遅れている。日本の当局にも、消費者の信頼を得る努力が求められる。
毎日新聞 2006年7月28日