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社説:総裁選幕開け 論戦早めて凡戦を脱せよ

自民党総裁選は27日、事実上スタートした。谷垣禎一財務相が正式に立候補を表明し、「谷垣禎一の三つの決意」と題した政権構想を公表した。安倍晋三官房長官も自らが議長を務める再チャレンジ推進会議をアピールする全国行脚の第1弾として岩手県を訪れた。

 麻生太郎外相と安倍氏の立候補表明は8月にずれ込むが、ようやく論戦が始まった。

 5年ぶりの政権交代を伴う総裁選だが、これまでは盛り上がりには欠けた。当初から有利と見られていた安倍氏が、福田康夫元官房長官の不出馬で、一段と優位に立っている。加えて、有力な3人の立候補予定者は、いずれも小泉政権の主要閣僚。互いに対立点を明確にしなかった。

 谷垣氏の「三つの決意」は(1)アジアホットラインの構築(2)地域活力を本当に取り戻す(3)財政の立て直しに逃げずにぶつかる--だ。財政再建を図るために、消費税率を「2010年代半ばまでのできるだけ早い時期に、少なくとも10%にする必要がある」と明示した点が一大特徴だ。

 歴代自民党政権にとって、消費税は一種のトラウマになっている。導入まで政権は4代、10年の年月を要した。税率を当初の3%から現行の5%に引き上げた橋本龍太郎政権は、その後の参院選で敗北、退陣している。

 国民の反発を覚悟で、消費税率の引き上げを盛り込んだ点は評価したい。財政再建と少子高齢社会でも維持できる社会保障制度の整備は、最重要課題だ。そのためには、財源確保が欠かせない。国民的認知度が十分でない谷垣氏には「ニュー谷垣」をアピールできる格好なテーマにもなり得る。

 アジア外交は小泉純一郎首相の靖国神社参拝を契機に暗礁に乗り上げている。その立て直し策として、谷垣氏は首相就任後の靖国神社への参拝は控える一方で、中国、韓国を含めたアジア諸国の首脳間での「アジアホットライン」の構築も提唱する。

 「小泉政治」継承者としての位置を固めつつある安倍氏との差別化を意識的に狙ったものといえる。同時に、靖国参拝を「心の問題」として、続行する意向の小泉首相批判にもつながるはずだが、この点は明快ではない。

 一方、安倍氏はこの日、民主党の小沢一郎代表の地元を訪問、サラリーマンなどから農民、漁民に転じた人々と懇談。「勝ち組」「負け組」を固定化せず、人生を複線化する持論の再チャレンジの意義を力説していた。

 総裁選での党員投票の比率は4割を超えている。01年に小泉首相を誕生させた総裁選では、国民からの各候補者の支持率が、投票権を持つ党員、さらには各国会議員に重大な影響を与えた。

 自民党の総裁選は即首相選びでもある。それだけに、一般国民にとっても候補者同士の論戦はトップリーダーとしての見識、資質を知る絶好の機会だ。安倍、麻生両氏も早々に決断し、自らの政権構想を世に問うべきだ。

毎日新聞 2006年7月28日 

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