兵庫県尼崎市で昨年4月に起きた福知山線脱線事故で、JR西日本は29日、同県伊丹市内で、遺族と負傷者を対象にした説明会をそれぞれ開き、死亡した高見隆二郎運転士(当時23歳)に関する社内調査の内容を初めて報告した。同社は「健康状態に問題はなかった」と述べ、事故の2日前から当日に会話した同僚らの誰もが異常を感じなかったと説明。事故を予見できなかったことを強調したが、事故原因への言及はなかった。また、事故で引責辞任しながらグループ会社社長などに先月就任した元幹部3人も出席。遺族らから批判が集中したが、人事を見直す姿勢を示さなかった。
説明会は昨年6月以降4回目でいずれも非公開。この日は午前中が犠牲者48人の遺族95人、午後は負傷者とその家族ら138人が出席した。
同社は昨年11月、事故の背景を独自に調査するために対策審議室を設置し、高見運転士の上司や同僚らへの聞き取りなどを進めている。この日、同社側は「捜査やプライバシーにかかわる部分は除く」と前置きしたうえで調査内容を説明した。
報告によると、高見運転士の性格を「明るく礼儀正しい。世話好きでまじめ」とし、健康診断でも異常はなかった。
また、事故2日前の昨年4月23日から事故当日までの高見運転士の行動については、前日の24日の点呼で「心身は良好」と答え、就寝前も「明日(25日)は見習い時に指導を受けた人と会うので楽しみ」と同僚に話すなど悩んでいる様子はなかった。当日朝も同僚運転士に「よく寝られた」と答え、普段と変わらない元気な様子だった。
一方で、事故列車に乗客として乗った運転士が「(現場手前の)塚口駅を過ぎ、いつもこの辺りでブレーキをかけるのにスピードが出ている気がするなあと感じた」などと証言していることも明らかにした。
また、先月、グループ会社の社長や専務に就いた坂田正行・前専務兼総合企画本部長、徳岡研三・前専務兼鉄道本部長、橋本光人・前執行役員大阪支社長の3人が山崎正夫社長らとともに出席。昨年8月にグループ会社顧問に就任した井手正敬・前取締役相談役は当初から出席の予定がなかった。山崎社長は「安全最優先の企業風土構築のためにも本人たちの経験や能力が必要不可欠」などと人事に理解を求め、3人は事故について謝罪したが、参加者から批判が相次いだ。
そのほか、同社は、負傷者との補償交渉について社員が直接やり取りすることを原則としていたが、弁護士を立てているケースがあることを明らかにした。「負傷者側が弁護士を立てたため」と説明したという。
30日には別の遺族らに対する説明会が大阪市内で開かれる。【勝野俊一郎】
毎日新聞 2006年7月29日