日本郵政(西川善文社長)が31日、政府に提出した民営化後の経営計画は「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」の金融事業で拡大路線が際立つ一方、赤字体質への逆戻りが懸念される郵便事業会社の具体的な強化策は示されないままのバランスを欠く内容となった。計画では来年10月の民営化以降、郵便局会社を含む4事業会社すべてで単体黒字を見込んでいるが、「楽観的過ぎる」(シンクタンク)との見方も強い。
総資産226兆円と、メガバンクをはるかに上回る“ギガバンク”の「ゆうちょ銀行」。経営計画は個人・中小企業向け融資から信託銀行業務まで広範な新規業務参入を打ち出した。銀行界は「実質的な官業の肥大化」(全国銀行協会の畔柳信雄会長=三菱東京UFJ銀行頭取)「地域の金融システムの安定に重大な影響を及ぼす」(全国地方銀行協会の瀬谷俊雄会長=東邦銀行頭取)と一斉に反発。生保業界もかんぽ生命について、政府出資が解消するまでは新規商品開発・販売や加入限度額(現行1000万円)の引き上げなどの業務拡大を認めないように要望した。
竹中平蔵総務・郵政民営化担当相は「計画は規模拡大を求めていない」と日本郵政の立場を擁護するが、雇用削減ができない足かせがあるとは言え、「業務の効率化による収益向上策がほとんど示されていない計画には、なりふり構わぬ肥大化で金融事業の収益向上を図る意図が感じられる」(シンクタンク)との批判が多い。
一方で、「新規参入が認められても、職員の業務への習熟などに想像以上に時間がかかる」(大手行関係者)との見方もある。そうなれば、ゆうちょ銀は現在と同様、国債など金融商品での資金運用が収益の中心となる。しかし、長期金利が今後、本格的な上昇(債券価格は下落)に転じれば、大量に保有する債券の値打ちが目減りし、11年度の最終利益は想定の4880億円から590億円に急減する見通し。巨大であるだけに、運用難は経営を揺さぶりかねない。
一方、郵便事業の先行きも懸念材料だ。「国際物流業務以外に具体的な新規業務が示されなかったが、その国際物流も稼ぎ頭に育てるまで時間もカネもかかる」(公社幹部)ためだ。郵便事業は電子メール普及や民間運送会社との競争で取扱高の減少に歯止めがかからず、07年3月期に再び赤字に転落する見通し。日本郵政は民営化後の郵便事業会社の最終利益が08年度の380億円から11年度には530億円に順調に拡大するシナリオを描くが、「根拠なき楽観」(シンクタンク)にも映る。【竹川正記、野原大輔】
■郵政民営化の経営計画の要旨は次の通り。
【日本郵政株式会社】
▽4事業会社を管理する持ち株会社。社員3800人
▽ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険を遅くとも民営化後4年目で株式上場、その後5年間で株式を売却し完全民営化
【郵便事業会社】
▽手紙、はがきなど郵便物のユニバーサル(全国同一料金)サービス
▽社員10万6800人。全国1093支店。資本金2000億円
▽アジア市場で日本発着の国際急送便事業を開始
【郵便局(窓口ネットワーク)会社】
▽郵便物受け渡しや、ゆうちょ銀行代理店など他の3事業会社の代理業務
▽全国2万4600局。社員12万5800人。資本金2000億円
▽自動車などの損保商品の窓口販売、都心の郵便局敷地などの不動産開発
【ゆうちょ銀行】
▽預金、送金、決済、投資信託販売など
▽233直営店。社員1万1400人。総資産226兆円。資本金6兆8000億円
▽定期性預金の預け入れ限度額(1000万円)の増額・廃止、個人向けカード・住宅ローン、クレジットカード業務、中小企業向け融資・保証、信託銀行業務などに参入
【かんぽ生命】
▽無診査保険と特約の提供
▽81直営店。社員5400人。総資産114兆円。資本金1兆円
▽資金運用の自由化、加入一定期間経過後の加入限度額(現行1000万円)の引き上げ、医療・傷害保険など第3分野商品や変額年金保険の開発・販売
毎日新聞 2006年7月31日