成年後見制度の担い手として期待されていた司法書士までもが、依頼者の信頼を裏切っていた。77歳女性からの調停請求で明らかになった、報酬をめぐるトラブル。調査した司法書士会は「常識はずれの額」としているが、司法書士は返還を拒否している。「いい先生だと安心していたのに……」。埼玉県内の福祉施設に暮らす女性は、そう言って肩を落とした。【成年後見取材班】
女性は以前、東海地方に住んでいたが、4年前に夫を亡くし、翌年、兄弟がいる東京都に移住した。しかし、不慣れな東京暮らしで体調を崩し、入院。将来への不安が募る中、福祉関係者の紹介で老後を託したのが、この司法書士だった。
だが、預けた預金通帳は、解任するまでの1年半に、報酬だけで約500万円も減っていた。内訳はこんな具合だ。
「日当」では▽女性との面会1回が2万5000~5万円▽印鑑店で664円のゴム印を購入した際が5000円▽区役所で住民票を取得した際は2万円--など。手続き関係の報酬は▽マンション売却時に83万円▽福祉施設への入居契約で70万円--などだ。
女性は毎月3万円の定額報酬を支払っており、司法書士が所属する社団法人成年後見センター・リーガルサポートは「面会など通常業務は定額の範囲。30分5000円もの日当加算はおかしいし、不動産売買などの報酬も高すぎる」と認める。
司法書士は86年に事務所を開設。成年後見制度が始まった00年以降、積極的に利用普及にかかわり、昨年までリーガルサポート東京支部の副支部長も務めた。インターネット上のブログで制度の活用を説き、今春、制度を紹介する本も出版した。女性は「専門家だから安心」と紹介されていた。
一方で、自身はリーガルサポートの規則に従わず、女性と契約を結んだことを支部に報告していなかった。リーガルサポートは昨年、別の案件で日当の加算を知り「やめるよう再三指導したが、従わないため処分を念頭に調査してきた」という。松井秀樹専務理事は「女性の件は調停請求が来るまで知らなかった。社会的責任を感じており、報酬が返還されるよう、できるだけのことをする」と話している。
◇事務所維持のため…正当性を強く主張
《司法書士は報酬の正当性を強く主張しながら、高額になった理由は「事務所の維持」のためと述べた。主な一問一答は次の通り》
--契約の金額はどのように決めたのか。
今までの経験などから私から提示した。
--具体的に、いくらかかると説明したのか。
500万とは言っていない。かなりの高額、数百万円かかると言った。女性は「分かりました」と言っていた。
--高過ぎないか。
おかしくないですね。そうしないと、事務所が維持できない。
--住民票を取るのに2万円とか、ゴム印買うのに5000円というのも。
そうですね。事務所によって報酬はさまざまだから。まとめて説明して了解頂いている。
--女性は契約後長い間、報告をもらっていないと言っているが。
最初は仕事が多いので半年ぐらいかかると説明し、了解を得た。報告は文書で6回ぐらいした。
--最初の報告はいつか。
契約の1、2カ月後。
--半年ぐらいかかるのではなかったのか。
そうですね。
--文書で6回出した?
ぐらいですね。文書か、もしくは口頭で。
--先ほど「文書で」と明言したが。
僕はそう記憶しているんですね。(報告が遅れたという)女性の言っていることが分からない。
--女性の方が間違っているということですか。
毎日新聞 2006年9月14日