米国生まれの日本語詩人、アーサー・ビナードさん(39)=東京都板橋区=の絵本「ここが家だ--ベン・シャーンの第五福竜丸」(集英社)が26日出版される。米国の水爆実験による「死の灰」事件をテーマに、米国を代表する社会派画家のベン・シャーン(故人)が怒りを込めて筆を執った連作に、ビナードさんが日本語で初めて物語をつけた。
1957年からシャーンが描いた「ラッキードラゴン・シリーズ」50点以上の中から、彩色12点、モノクロ18点を選んだ。54年3月のビキニ水爆実験で死の灰を浴び亡くなった無線長、久保山愛吉さん(当時40歳)が愛児を抱く作品などがある。構成と文を手掛けたビナードさんは、詩集「釣り上げては」で中原中也賞を受賞した気鋭の詩人で、シャーンには少年時代から関心を持っていた。
「久保山さんのこと を わすれない」と ひとびとは いった。
けれど わすれるの を じっとまっている ひとたちもいる。
波も うちよせて おぼえている。 ひとびとも わすれやしない。
シャーンの絵とビナードさんの文が、反核への思いを紡ぎ出す。
ビナードさんは話す。「シャーンは連作を描く過程で、地球を覆う『核の冬』に心を痛めていた。久保山さんの死も、人間全体の問題として見つめていた。自分も詩人として、表現者として、事件の本質を絵本づくりに生かしたかった」
シャーンの絵は、ストーリーとしては描かれていない。ビナードさんは「連作をどう構成していくか。福竜丸が所属した(静岡の)焼津港に行って関係者にも会い、刊行までに1年近く絵と格闘した」という。
B5判、56ページ。1680円(税込み)。刊行に合わせ、東京都立第五福竜丸展示館(江東区)で20日からベン・シャーン特別展が始まり、福島県立美術館など6会場での開催も予定されている。【沢田猛】
◇ベン・シャーン 1898~1969年リトアニア生まれで、米国に7歳で移住し、石版工として働きながらデザインを学ぶ。57~58年、科学雑誌で、核物理学者ラルフ・ラップ(故人)の第五福竜丸に関するルポに挿絵を付け「ラッキードラゴン・シリーズ」に発展した。和田誠さんら日本のイラストレーターやグラフィックデザイナーにも影響を与えた。
毎日新聞 2006年9月25日