松下電器産業が検討していた子会社の日本ビクターの売却が大詰めを迎えている。松下がこのほど実施した買収提案の入札で、米系の大手投資ファンドのTPG(テキサス・パシフィック・グループ)とサーベラスの2社が応札した。松下は提示された売却価格のほか、ビクターの再建案を比較検討したうえで交渉相手を1社に絞り込み、3月中に売却先を決めたい考えだ。
今回の入札について松下は「何も決まっていない。ノーコメント」(広報担当)としており、入札価格は明らかになっていない。ただ、日本でのビジネス拡大を狙うTPGがサーベラスを上回ったのではないかとの見方がある。
TPGは今回の応札が事実上、日本で初の大型買収案件。今後3~5年の間に日本で毎年5億(約590億円)~10億ドルの投資を行うことを表明しており、今月6日には玩具大手のタカラトミーとの資本・事業提携を発表した。今回の買収では、松下の保有するビクター株(52.4%)を含む全株の取得を目指しているとみられる。
一方、サーベラスはビクターの経営陣と組んで、松下の保有株を買い取るMBO(自社買収)を提案した。
これまでビクター買収に名乗りを上げていた欧州系ファンドのペルミラ、シンガポール拠点のファンドのCCMPキャピタル・アジアは、条件が折り合わなかったことから入札には参加しなかった。また、松下が当初、ビクターの経営統合先として売却を検討していた中堅音響メーカーのケンウッドも入札しなかった。ケンウッドはビクターとの経営統合に乗り気だったが、ビクター経営陣が規模の小さいケンウッドへの株式売却と経営統合に強い難色を示したため、松下がケンウッドとの交渉を断念したとみられる。
松下は、ビクターが07年3月期連結決算で2年連続の営業赤字の見通しとなるなど業績不振が続いているうえ、AV(音響・映像)分野の製品で重複が多いことから昨年秋ごろから売却の検討を本格化してきた。【田畑悦郎】
毎日新聞 2007年3月10日 22時43分