中国電子商取引最大手のアリババ集団がネットインフラ企業を目指し、新たな一歩を踏み出した。9日に中国の新興スマートフォン(スマホ)メーカー、珠海市魅族科技(メイズ)に5億9千万ドル(約700億円)を出資すると発表した。ネットサービスの新たな「入り口」を確保するとともに、独自開発の基本ソフト(OS)を普及させることで、ネットサービスのプラットフォームを握ろうとしている。
■使い勝手良く
メイズが参入した格安スマホ(1月28日、北京市内で開いた発表会)
「モバイル戦略における重要なステップだ」。アリババの王堅・最高技術責任者(CTO)が9日の声明でこう説明したメイズへの出資。出資比率は明らかにしていないが、アリババはメイズのスマホを活用したネットビジネスで協力関係を深めるという。具体的にはアリババのネット通販サイトで買い物がしやすいスマホなどを共同で開発するとみられる。
中国では4億人がスマホを利用しているとされ、アリババのインターネット通販サイトでもスマホ利用が急増している。アリババの売上高の85%は中国国内のネット通販で、海外も入れれば9割を超える。中でもスマホを使った取引の割合は2014年10~12月期に42%と1年前に比べ倍増した。メイズと共同開発するスマホをモデルに使い勝手を良くすれば、さらにネット通販の売り上げ増を期待できる。
ただ、アリババが狙っているのはネット通販だけではない。中国のネット通販市場は14年に2兆7千億元(約50兆円)規模に膨らんだ。アリババはその8割のシェアを握るが、「いずれ競争に巻き込まれる」(関係者)と警戒感を強めている。家電に強い「京東商城」やネット上のスーパーを標榜する「1号店」など特色あるサービスで利用者を増やすライバルが追い上げている。
差別化のためにアリババがネット通販の先に見据えているのはネットサービスを一元的に提供すること。カギを握るのがアリババが11年に発表したリナックスベースの基本ソフト(OS)である「阿里雲OS」だ。
開発の陣頭指揮を執ってきた王CTOは米マイクロソフトが北京に構えた研究所で腕を磨いたエンジニア。08年にアリババに移り、将来のクラウド時代を見越した情報技術(IT)基盤を作ってきた。王CTOの手で作り上げた阿里雲OSは海爾集団(ハイアール)などのほか、メイズも昨年9月に発売したスマホに採用している。
まだ、思うような実績は残せていないが、阿里雲OSをネットサービスのプラットフォームとして普及できれば、ネット通販だけでなく、クラウドサービスや、ネットゲーム、ネット広告などを丸ごと取り込むことも可能になる。
■稼ぐモデル模索
だが、こうしたネットサービスの主導権争いはこれから激しくなるとみられる。14年に中国のスマホ市場でトップに立った小米は基盤ソフト「MIUI」を開発。低価格で販売して広げた顧客基盤を活用して、MIUIを普及させ、ネットサービス事業の拡大を狙う。
アリババの売上高のうち、クラウドサービス部門はまだ1%を占めるにすぎない。OSを通じて各種ネットサービスを提供する「インフラ企業」になることこそが変化の激しいネット業界で勝ち残る秘策と見るが、まだ稼ぐモデルを模索している段階だ。メイズとの協業の行方が一つの試金石となりそうだ。
(上海=菅原透)
珠海市魅族科技(メイズ) 広東省珠海市にある新興スマホメーカー。携帯音楽プレーヤーメーカーとして2003年に発足、09年にスマホ事業に参入した。中国市場で韓国サムスン電子を抑えてトップに立った小米に続き、「今年、躍進しそうなスマホメーカー」(日系電子部品メーカー)と注目を集める。今年1月の販売台数は150万台と前の月を5割上回った。価格競争力が強みで、今月5日には699元(約1万3200円)の低価格スマホの発売が話題となった。