安倍晋三首相は12日午後の衆院本会議で施政方針演説をした。成長戦略実行に向け「この国会に求められていることは『改革の断行』だ」と強調。中東の過激派「イスラム国」を名乗る組織の日本人殺害事件に触れ「テロに屈することはない」と述べ、国際社会で「責任を毅然として果たす」と訴える。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉は「出口が見えてきた」と早期妥結に意欲を示す。
昨年12月の衆院選後に発足した第3次安倍内閣では初の施政方針演説。政府は1月召集の通常国会で、まず2014年度補正予算を成立させた。12日に15年度予算案を国会に提出したため、施政方針、外交、財政、経済の政府4演説に臨んだ。
首相は冒頭、日本人殺害事件を「痛恨の極みだ」と指摘し「非道かつ卑劣極まりないテロ行為を断固非難する」と訴える。中東地域への食糧、医療などの人道支援を拡充する考えを明らかにする。
今国会では「戦後以来の大改革」として経済再生、東日本大震災からの復興、社会保障改革、教育再生、地方創生、女性活躍、外交・安全保障の立て直しに取り組むと訴える。
憲法改正に向けて「国民的な議論を深めていこう」と表明。自民党は16年夏の参院選後の憲法改正発議を目指している。
経済再生の目玉として「農家の所得を増やすための改革を進める」と指摘。「60年ぶりの農協改革を断行する」と全国農業協同組合中央会(JA全中)を一般社団法人化する方針を示す。JA全中の監査・指導権をなくし、地域農協主導による農産品のブランド化や海外展開を促す。
原子力規制委員会の判断に沿って原発再稼働を進める考えを示す。長期的に原発依存度は低減させると訴える。
デフレ脱却を確実にするため、消費税率の10%への引き上げを17年4月に延期したと説明。賃上げによる消費喚起を柱とした経済の好循環を実現し「経済再生と財政再建、社会保障改革の3つを同時に達成していく」と述べる。20年度に基礎的財政収支を黒字化する財政健全化目標に向け、夏までに具体的計画を策定すると表明する。
外交・安保分野では、集団的自衛権の行使を認める安保法制の今国会成立に協力を呼びかける。戦後70年を迎えることに触れ「日本は先の大戦の深い反省と共に、自由で民主的な国を創り上げ、世界の平和と繁栄に貢献してきた」と強調。未来志向の新たな首相談話を発表する意向を示す。
世界の平和と安定に進んで貢献する「積極的平和主義」を掲げた「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を進めると強調。基軸は日米同盟だとし、防衛協力のための指針(ガイドライン)の早期改定の必要性を指摘する。米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設に理解を求める。
昨年11月の習近平国家主席との日中首脳会談を踏まえ「大局的な観点から安定的な友好関係を発展させる」と主張。韓国に早期の関係改善を呼びかける。ロシアのプーチン大統領の来日は「本年の適切な時期に実現したい」と表明。北朝鮮は日本人拉致被害者らの安否に関する再調査について「一刻も早く全ての結果を正直に通報すべきだ」と訴える。