中東の過激派「イスラム国」に殺害されたとみられるフリージャーナリスト、後藤健二さん(47)と親交のあった劇団が、後藤さんの体験を基にかつて上演した劇「イマジナリーライン」を3月1日に大阪市内で再演する。「いつも温かい目線で紛争地の人々に寄り添っていた」。悲しい現実は今も受け止めきれずにいるが、メンバーは遺志を伝えたいと舞台に立つ。
「聞かせてください。どうしてジャーナリストになったのか」。2月24日夜、蛍光灯に照らされた雑居ビルの一室。関西を拠点とする劇団「桜人企画」のメンバーが、せりふや立ち位置の確認を繰り返していた。
劇中で「ケンジ」は新米ジャーナリストの「アキラ」を連れ、紛争地の町を訪れるが、教会のシスターに取材を拒まれる。説得の過程でケンジは、人の死があふれる前線での葛藤から、その一歩手前で暮らす人々にこそカメラを向けたいと思うようになったと過去を語り始める。
脚本を手掛けたのは、劇団代表の演出家、馬場さくらさん(41)。2010年に後藤さんと知り合い、すぐに人柄に引かれ、取材での経験を聞かせてほしいと申し出た。11年5月と14年2月、上演にこぎ着け、後藤さんも講演に駆け付けた。
14年秋から連絡が途絶え、不安を募らせていた時、イスラム国が公開した映像が飛び込んできた。最後の瞬間まで毅然とした姿に、胸が引き裂かれそうになった。
ショックで何も手に付かなくなったが、いつも走り回っていた後藤さんの姿を思い出し、自分なりにできることをしようと発起。再演を他のメンバーに呼びかけた。遺志を受け継ぐとのメッセージを込めて、結末を書きかえた。
ケンジ役の山本英輝さん(43)は「後藤さんが伝えたかったことを代わりに伝えたい」と話す。アキラ役の堤亮さん(31)も「僕らが教えてもらったことを再びくみ取ってもらえる場にしたい」と熱演を誓う。
「撮るべきものがあれば撮りに行く。それがジャーナリストだと思っています」。劇中でケンジはきっぱりと言い切る。危険地帯にあえて足を踏み入れ、そこで起きていることを知らせる人たちにも、あらためて思いをはせるきっかけになれば――。馬場さんの願いだ。〔共同〕