ロシア軍の戦死者や負傷者の規模を明らかにしようと取り組んでいるのは殺された野党政治家だけではない。
その部屋に入ると、サシャは服を脱ぎ、上半身を屈めるよう告げられた。「健康で立派な体だこと!」中年の女性が若者を簡単に診察し、その背中に触りながらそう言った。「私たち母親があなたたちを産んだのは、この世で生きるためであって、射殺されたり、人を殺したりするためではないのよ!」
負傷した親ロ派の一員が病院へ運ばれてきた(2月8日、ウクライナ東部デバリツェボ近郊)=AP
軍隊に入隊するという18歳の息子サシャを説得し、思いとどまらせようと、母親はサシャを、兵士の権利を守るために活動する非政府団体「兵士の母の会」に行かせた。この会で活動するワーカーたちは、ウクライナに送られ、戦闘に参加させられるかもしれないとサシャに警告した。
■世論調査、回答者の60%「戦争ない」
だが、ウクライナのドンバス地方にロシア兵が現れて数カ月たった今も、ウラジーミル・プーチン大統領はロシアがウクライナと戦争していることを否定し続けている。国民の大半はプーチン大統領の言うことを信じている。独立系世論調査機関レバダ・センターが先月実施した世論調査によれば、回答者の60%がロシアとウクライナは戦争をしていないと考えており、隣国ウクライナにロシア兵が派兵されていると信じているロシア人は4人に1人にすぎない。
先週射殺された野党指導者ボリス・ネムツォフ元第1副首相は、こうした世論を変えようと考えていた。死の4日前、ネムツォフ氏は、より多くのロシア人、とりわけ兵士たちが大統領は嘘をついていると知れば、プーチン氏に対する支持は揺らぐと語っていた。「今、自分はこの仕事にとりかかっている」とネムツォフ氏は語っていた。
野党に加わってネムツォフ氏の同僚となったミハイル・カシヤノフ元首相は、ネムツォフ氏の死のわずか数日前、2人でこの計画について話し合ったという。「政府当局が最も恐れているのは“カーゴ200”(死体を意味するロシア軍の隠語)だ」とカシヤノフ氏は語った。「そしてボリスはすでに、インターネットや、ロシアやウクライナの情報源から(戦死者についての情報を)集めていたのを、私は知っている」
「(政府当局の)人間が、ボリスが何か特別な情報を知っていると考えたら、今回の殺害を企てた可能性はあるが、私はボリスが具体的なことを知っていたとは思わない」とカシヤノフ氏は語っている。ネムツォフ氏はロシア国民に「真実」を知ってほしかったのだ。「こうした真実は政府宣伝を否定するリポートになったはずだ」