1年夏の全国選手権。東海大甲府戦で甲子園初本塁打を放って笑顔をみせる早稲田実の清宮
積み上げた高校での本塁打は79本。1年生から強打者として注目されてきた早稲田実(東京)、清宮幸太郎のラストイヤーがいよいよ始まる。第89回選抜高校野球大会(日本高校野球連盟、毎日新聞社主催、朝日新聞社後援、阪神甲子園球場特別協力)は19日に開幕。きょう16日、出場32校の甲子園練習のトリとして大舞台に戻ってくる。
選抜出場校の主将32人が集まった9日の「キャプテントーク」。長年、司会を務める毎日放送(MBS)の森本栄浩アナウンサーが冒頭、テレビカメラの多さを見て、驚きの声をあげた。「これだけ多くの報道陣が集まるのは初めてです」。その数、82人。清宮の影響で増えたことは間違いない。
清宮は小学生時代にリトルリーグの世界選手権で優勝し、米メディアから「和製ベーブ・ルース」と騒がれた。父親はラグビーの元早大監督で、現在はヤマハ発動機を率いる克幸さん。鳴り物入りで早稲田実に進学した。
実力は本物だ。1年夏の全国選手権に3番・一塁手で登場。1、2回戦で計8打数3安打2打点と活躍し、迎えた東海大甲府(山梨)との3回戦の第2打席。右中間席に豪快に甲子園初本塁打を打ち込んだ。大人顔負けの体格とは不釣り合いな、屈託のない笑顔でベースをめぐる清宮。その後も1年生でただ1人、18歳以下の日本代表に選ばれ、4番を任された。
打撃スタイルは、まさに天性。「来た球を打つ。打てるボールは振っていく。1年生のときから変わっていません」と清宮。だから、アドバイスを受けようにも、みんな肩すかしを食らってしまう。早稲田実の1学年後輩で4番を打つ野村大樹や選抜大会の抽選会前日に同宿した明徳義塾(高知)の山口海斗主将は「感覚で打っているんだなあ」と舌を巻く。
努力も惜しまない。体作りの知識はチーム内でも群を抜く。この冬は筋力トレーニングにさらに励み、体重は100キロを超えた。そして、昨秋、新チームの主将になり、心も成長した。掲げたスローガンは「GO!GO!GO!」。常に前向きな気持ちを意味するが、その姿勢は1年夏に学んだ。西東京大会決勝は、八回に5点差をはね返して甲子園切符をつかんだ。甲子園では4強入り。「あきらめる人は誰もいなかった。すごく大事なことだと思う」。試合では人一倍声を出す。主将になってから清宮の声はかれたままだ。
いま高校通算79本塁打。大きく成長して3季ぶりに甲子園に戻る選抜大会は、各所で「清宮シフト」が敷かれる。「キャプテントーク」は独り壇上で報道陣に囲まれ、抽選会では早稲田実と対戦校だけ別室での取材となった。報道も過熱ぎみ。対戦校が明徳義塾に決まると、1992年夏の星稜(石川)戦で、松井秀喜(元ヤンキース)を5敬遠したことを引き合いに、馬淵史郎監督に「敬遠するのか」と清宮対策を問う一幕もあった。
抽選会前に発売した開幕日の一、三塁側特別自由席の前売り券は開始30分で売り切れ。抽選会後は早稲田実が登場する第5日は平日にもかかわらず、ほぼ完売(13日時点)となった。「選抜では史上初の満員通知が出るかもしれない」と日本高校野球連盟の竹中雅彦事務局長。球場入りは、他校と違う場所にバスを止め、観客と接触しないルートが準備されているという。いよいよこの日、甲子園に姿をみせる清宮は「どこも強いチーム。楽しみたい。勝っていければ自信になる」と胸を躍らせている。
■ライバルたちも意識
ライバルたちも黙っていない。
「清宮君が1年生から活躍する姿を見て、もっと頑張らないと、と意識してきた」。そう話すのは、昨秋の明治神宮大会決勝で早稲田実を破った履正社(大阪)の3番安田尚憲三塁手(3年)だ。身長188センチ、体重95キロの左打者で高校通算47本塁打。「実力は清宮君が上」としつつ、「この春で変えてやろうという気持ち」と燃える。
選抜大会連覇を狙う智弁学園(奈良)の1番を打つ福元悠真主将(3年)は「フィーバー」を歓迎する。「注目する中で試合がしたい。早稲田実と対戦したいです」
東海王者・静岡のエース池谷蒼大(3年)、九州王者・福岡大大濠のエース三浦銀二(3年)はともに神宮大会で早稲田実と対戦し、清宮を意識して制球を乱した。「敗戦をきっかけに投球フォームを作り直した」と池谷が言えば、三浦も「選抜でもう一度対戦したい」と雪辱を期す。
日大三(東京)の左腕桜井周斗(3年)は昨秋の都大会決勝で清宮から5三振を奪いながら、逆転サヨナラ負け。「清宮ばかり目立っているけど、東京には『三高』もいる。今に見てろよという感じです」(坂名信行、山口史朗)