アジア開発銀行(ADB)の中尾武彦総裁は25日、都内で開いた記者会見で中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)と条件付きで協調融資を検討する方針を表明した。「敵対はオプションにありえない」と述べて、インフラ金融などのノウハウ提供や技術協力を念頭に協力を進める準備があるとした。
中尾氏は25日、首相官邸で安倍晋三首相と会談した。AIIBをめぐる情勢が議論にのぼった可能性がある。
記者会見で中尾氏は「協調融資が(AIIBとの)一つの大きな補完関係になる」と述べ、インフラ整備の資金需要を満たすためにAIIBの役割に期待を示した。ADBの試算によると、成長期のアジアのインフラ向け資金需要は年7500億ドル。ADBの年間融資額は2014年に135億ドルにとどまる。17年から融資枠を5割増やすが、それでも資金需要に追いつかない。
一方、ADBが採用する環境や人権に配慮した融資基準については「途上国を含めた社会の中で要請されている」と述べた。AIIBと協調融資を実施する際も「基準を下げることは考えていない」と強調した。
中国の楼継偉財政相は22日に北京で開いた経済フォーラムで「西側諸国のルールが最適とは限らない」と指摘した。ADBや世界銀行の融資基準や組織の運営方針を批判した形だ。中尾氏はAIIBがADBと同じ基準を満たすことが協調融資の条件になるとの認識を示し、組織の透明化を求める日米と足並みをそろえた。
日本がAIIBに参加しないことでアジアでのインフラ輸出などで不利になるとの見方には否定的な考えを示した。従来のインフラなどの入札案件でも「日本企業(から)の調達は非常に限られる」と指摘。インフラ輸出を増やすには日本企業の価格競争力のある製品開発が重要との見方を示した。
ADBは日本と米国が最大出資国で、総裁は創設から9代続けて日本から選出している。ADBで影響力を高められない中国はAIIBを今年末までに設立する。設立協定交渉に参加するには3月末までに覚書に署名するよう中国は要請。欧州各国は雪崩をうって参加する方針を決めているが、日米はADBの地位低下などを警戒し参加には慎重だ。