原子力規制委員会の田中俊一委員長は15日、関西電力高浜原子力発電所3、4号機(福井県)の運転を認めないとする福井地裁の仮処分を巡り、「原発の新規制基準を見直す必要はない。世界で比べても最も厳しいレベルにある」と述べ、基準の不備を指摘した地裁の判断に反論した。「(地裁判断には)事実誤認がある」と語り、原発再稼働にかかわる手続きを従来通り進める考えを強調した。
同日の定例記者会見で語った。
福井地裁が14日の決定で問題視したのが地震対策だ。関電は最大で700ガル(ガルは加速度の単位)の揺れを想定している。福井地裁は「全国の4つの原発で5回にわたり想定を超える地震が2005年以後に到来している」として「(関電の想定は)信頼に値しない」とした。
700ガルは東日本大震災のときに東京電力福島第1原発で記録した550ガルを上回っており、規制委は関電の想定を妥当と認めている。田中委員長は過去の教訓を踏まえ、新たな知見を取り入れて対策を進めているとして「相当、厳しい規制をしている」と語った。原発の設備の耐震性を地裁は正確に理解していないとも指摘した。
規制委は福島第1原発事故後の12年9月に発足。田中委員長のほか事故対策や自然災害の専門家ら4人の委員で構成し、13年7月に従来より厳しい安全性を原発に求める新規制基準を施行した。高浜3、4号機は新基準のもとでの審査で1年半以上かけて災害や事故への備えを検証し、今年2月に合格を決めた。
福井地裁が「緩やかにすぎ」「合理性を欠く」と批判した新基準は、福島第1原発のような重大事故を防ぐために何重もの対策を課す内容となっている。
田中委員長は国際的にもレベルの高さは認められていると反論し「見直す必要性は感じていない」と語った。規制委はこれまで通り原発の安全審査などを進める構えだ。
ただ関電にとって地裁決定は大きな痛手だ。関電の森詳介会長は15日、関西経済連合会会長としての定例会見で「司法判断をそのまま受け入れるわけにはいかない」と述べた。「決定内容を詳細に把握した上で申し立てを早急にしたい」と福井地裁に異議申し立てをする方針を明らかにした。
11月までをメドとしていた高浜3、4号機の再稼働については「早期再稼働の可能性が低くなった」と話し、地裁の決定により時期が遅れる可能性に言及した。苦境が続く業績の立て直しにも影を落としそうだ。
規制委も表向きは平静を装うが、福井地裁の決定を機に原発に慎重な世論が強まれば、審査の見直しを求める動きにつながる可能性がある。原発の運転差し止めを求める訴訟や仮処分の申し立ては全国に広がっている。