【ブリュッセル=森本学】欧州連合(EU)は22日、協議が難航していた12万人の難民受け入れ分担案を賛成多数で押し切った。公約の「難民16万人の分担」の面目は保っても欧州の結束には禍根を残しそうだ。
22日、ハンガリーからオーストリア国境に向かう難民ら=ロイター
「すぐに王様は裸だと気づくだろう。常識が失われた」――。難民の受け入れ分担案に反対していたチェコのホバネツ内相は22日、ブリュッセルで開かれた臨時のEU内相・法相理事会で、多数決によって12万人の分担案が可決されると、即座にツイッターで不満をぶちまけた。
この日の理事会で主要議題となった12万人の分担案はギリシャやイタリアに殺到するシリア難民らをEU加盟国で分担して受け入れて、それぞれの国に再定住させようというもの。欧州委員会が9月上旬に提案し、14日に開いた臨時の内相・法相理事会でも合意を目指したが、チェコやハンガリーなど中東欧諸国の猛反発で結論を持ち越していた。
同理事会のアッセルボルン議長(ルクセンブルク外相)は21日、プラハを訪ねて中東欧諸国の説得に再度臨んだが、分担案への反対姿勢は覆らなかった。議長は加盟国の規模などを加味した「特定多数決」というEU条約に基づく多数決の手法で分担案を可決することを決断。チェコ、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアの4カ国が反対、フィンランドが棄権に回る中、賛成多数で12万人分担案の導入を決めた。
「今日決められなかったら、欧州はさらに信頼を失っていただろう」。理事会後の記者会見に現れたアッセルボルン議長の表情には疲弊感が漂っていた。難民問題を巡るEUの対応の鈍さへ批判が強まる中、多数決はやむを得なかったとの弁明に追われた。
この日の決定に先立って、EUはシリア難民ら4万人の受け入れ分担を合意済みだった。22日合意した12万人分と合わせると欧州委員会が“公約”に掲げた16万人の難民受け入れ分担は数字の上では達成できたように見える。ただ、当初目指した分担の「義務化」は見送った。16万人という数字の実現に向けても不透明要素が少なくない。
22日合意した12万人のうち、各国ごとに受け入れ分担の協力を求める具体的な人数まで決めたのは約半分の6万6000人どまり。しかも、反対票を投じたチェコに1591人、ハンガリーに1294人、ルーマニアに2475人、スロバキアに802人の自主的な受け入れを求める内容だ。アッセルボルン議長は「決定を拒絶する権利は加盟国にない」と述べ、多数決に基づく分担案には中東欧も従う必要があるとの認識を示す。しかし、スロバキアのフィツォ首相は「私の在任中に難民の割当を引き受けることはない」と明言。中東欧が素直に応じるのかは不透明だ。
23日夜(日本時間24日未明)からは、ブリュッセルで難民危機を巡る非公式のEU首脳会議が開かれる。注目されるのが、分担案の反対派の急先鋒(せんぽう)であるハンガリーのオルバン首相の言動だ。ハンガリ―は欧州委の難民分担案を受け入れれば、自国領域に流入した5万6000人の難民らを他国に移せる「受益者」となる予定だった。しかし反対に回ったことでイタリアやギリシャの負担を分担する側に回ることになる。「16万人の難民受け入れ分担」を演出するためにEUが選んだ多数決は、欧州内の亀裂をさらに深めるリスクも秘めている。