【ニューヨーク=古川英治、吉野直也】オバマ米大統領とロシアのプーチン大統領の28日の会談は米ロの冷めた関係を改めて印象づけた。現実主義に徹し「取引」を求めるロシアに対し、米国は民主主義などの価値観を押し出す主張を展開、ウクライナとシリアを巡る対立は解けない。両者がかみ合わぬまま、対テロや難民問題といった課題への国際社会の対応は停滞している。
29日、握手を交わそうと手を伸ばすオバマ大統領(右)とプーチン大統領(ニューヨーク)=AP
28日に潘基文国連事務総長が主催した昼食会。総長の両脇に着席したオバマ大統領とプーチン大統領は乾杯こそしたものの、オバマ大統領は笑顔を見せず、プーチン大統領の表情はこわばっていた。
ロシアは国連総会に合わせた米ロ首脳会談に向けて準備を整えてきた。9月以降、親ロ派武装勢力とウクライナ軍が対峙する同国東部での軍事圧力を弱める半面、シリアのアサド政権への軍事支援を強化し、同国を拠点とする過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討に向けた国際的な協力を提唱した。
ウクライナ問題を巡る米欧の制裁に原油安が重なり、ロシア経済は不況に直面する。泥沼の内戦により難民が欧州に押し寄せるシリア問題での協力を誘い水にウクライナ介入で緊張した米欧との関係の緩和を模索した。
プーチン大統領の戦略は見返りを求める「取引」の発想に基づいている。政権に近い筋はロシアにとって最大の外交課題はウクライナを勢力圏に取り戻すことだと指摘したうえで、「(欧米が退陣を求める)シリアのアサド大統領のクビは(ウクライナでの)米国の出方次第だ」と話す。
これに対し、任期終盤に入ったオバマ大統領の外交判断のよりどころは国内世論にある。「ロシアを孤立させる」と発言し、制裁を発動したにもかかわらず、ロシアのウクライナ介入を止められていない。シリア情勢を巡りロシアの提案に乗れば、野党・共和党などからさらに批判を浴びるのは必至だ。
オバマ大統領は28日の国連演説でロシアによるウクライナの主権侵害を強く非難し、国民を無差別攻撃するシリアのアサド政権を「暴君」と切り捨てた。それでもリスクを伴う両問題への深入りは避けている。
ロシアも国内を意識している面がある。「平和の担い手、プーチン大統領」。政権統制下のロシアメディアは同大統領の国連演説を称賛し、オバマ大統領を圧倒したと大々的に報じた。反米感情をあおって、求心力を高めてきただけに、米国との関係改善を模索するにしても強硬の姿勢は演出しなければならない。
プーチン大統領は米ロ首脳会談後、ロシアのメディアと会見し、「率直で有益な会談だった」と評価した。「米ロ関係は(米国の行動により)著しく低いレベルにある」としたうえで、「ウクライナとシリアの問題で米国と一致する点も多い」などとも語った。
オバマ大統領とプーチン大統領は年内に開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議やアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の場でも会談する機会がある。外交攻勢で米国の揺さぶりを仕掛けるロシアにオバマ政権がどう向き合うかが試される。