昨年12月9日、国会の弾劾(だんがい)議決を受け、ソウルの大統領府(青瓦台)で閣僚たちとの懇談会に臨んだ朴槿恵大統領(韓国大統領府提供)
韓国の憲法裁判所は10日、国会に弾劾(だんがい)訴追された朴槿恵(パククネ)大統領(65)に対し、罷免(ひめん)を宣告した。朴氏が支援者のチェ・スンシル被告(60)に機密文書を流出させたことなどを違法行為と認定。「国民の信任を裏切り、憲法を守る観点から容認できない重大な法違反行為と見なければならない」とし、裁判官8人の全員一致で決定した。
特集:朴大統領を罷免
憲法裁判所の決定に上訴の制度はない。罷免決定は即時、効力が発生する。朴氏の罷免に伴って、次期大統領選は60日以内に行われる。投票日は5月9日が有力視されている。
韓国で大統領が弾劾訴追によって罷免されるのは初めて。1987年の民主化以降、大統領が任期途中で辞任するのも初めて。大統領の権限は次の大統領が決まるまで、引き続き、黄教安(ファンギョアン)首相(59)が代行する。
憲法裁は、朴氏が秘書官を通じて職務上の秘密に該当する文書をチェ被告に流出させたことを国家公務員法違反だと断定した。サムスン電子など企業からの資金拠出で設立された文化やスポーツに関する財団については、朴氏とチェ被告の意思決定で運営され、チェ被告の個人的な利益につながったと認定。朴氏はチェ被告の利益のために大統領の地位と権限を乱用したとした。
さらに朴氏は「チェ被告の国政介入の事実を徹底的に隠し、疑惑が提起されるたびに否定し、むしろ非難した」とし、憲法と法律に違反した行為は朴氏の在任期間中全般にわたって継続して行われたと指摘。検察や特別検察官の事情聴取に応じる考えを表明していたにもかかわらず、拒否したことも挙げ、朴氏の一連の言動は「憲法を守る意志がみえない」とし、「罷免することで得られる憲法守護の利益が圧倒的に大きい」とした。
憲法裁の罷免決定を受け、ソウル中央地検は、朴氏への捜査に本格的に着手する見通しだ。ソウル中央地検は文書流出などをめぐって朴氏をチェ被告や秘書官らとの「共犯」と位置づけている。韓国では憲法の規定で大統領は在職中に刑事訴追されないが、朴氏が罷免されたことから、検察は近く事情を聴取し、立件するとみられている。
与野党は大統領選に向けた準備を本格化させる。韓国の調査機関「リアルメーター」が6~8日に実施した次期大統領選に関する世論調査によると、進歩(革新)系で最大野党「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)前代表(64)が、支持率36・1%でトップを独走している。野党系の候補は慰安婦問題で日本側との再交渉を求めている。大統領選の結果によっては、日韓関係にも影響が及ぶ。(ソウル=東岡徹)