【リマ=河浪武史】日米欧や中国など20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は8日夜(日本時間9日午前)、世界経済全般について議論を深めないまま閉幕した。夕食を挟んだ3時間の会合では新興国の経済が弱含んでいるとの認識を共有し、構造改革の必要性で一致した。ただ動揺が続く金融市場への対応には踏み込まず、下振れ懸念のある新興国経済の先行きに不安を残した。
9日朝に記者会見した議長国トルコのユルマズ副首相は「世界経済は減速しており、G20は構造改革や成長戦略にもう一段の努力が必要だということで一致した」と述べた。だが市場が懸念する資源安や通貨競争といった問題への具体策には言及せず、共同声明の採択も見送った。
今回のG20は、当初から世界経済は主要議題ではなかった。世界同時株安の直後だったトルコでの前回会合から1カ月しかたっていないためだ。米利上げの是非が世界的に注目される中で、前回会合を欠席したイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が参加したものの、出席者によると「発言の機会は一切なかった」という。
世界経済は6日に国際通貨基金(IMF)が成長率見通しを下方修正するなど、下振れ懸念がさらに強まっている。中国の減速の影響が、新興国など世界全体に及んできたためだ。中国はなお6%台の成長率を見込むが、資源安などでロシアやブラジルは2015年、16年と2年連続でマイナス成長になるとの見方が多い。不安がくすぶる世界経済について「本来はもう一段の議論をすべきだった」(同行筋)。
具体論を避けた背景には、G20での政策協調に難しさが増していることがある。金融危機後の中国のような巨額の財政支出はのぞみにくい。日欧が大規模緩和を続ける一方で米国は約9年ぶりの利上げを模索し、金融政策の方向にもズレが生まれ始めた。立場や思惑が異なる各国が、互いの問題を批判し合う展開を回避した面がありそうだ。
G20は昨年、雇用創出やインフラ投資などで成長率を2%底上げすると表明したが、今回は参加国から「具体策づくりが遅れている」との指摘があったという。
国際金融協会の試算では、今年7~9月期の新興国からの資金流出は約400億ドル(約4兆8千億円)と、08年の金融危機時以来の規模となった。IMFによると、新興国企業の借入金は04年の4兆ドル(約480兆円)から14年には18兆ドル強に膨らんでおり、過剰債務のリスクもにじむ。米利上げ観測をきっかけに、新興国に集まった低利のドル資金が引き揚げられ、成長の足かせとなっている。
新興国の減速は先進国に跳ね返る。日本は対中輸出の停滞などで鉱工業生産指数が2カ月連続で低下し、成長率も2四半期続けてマイナスになるとの見方がくすぶる。08年の金融危機時、先進国によるG7に代わって重みが増したG20は、再び真価が問われている。