【ベルリン=赤川省吾】ドイツと並んで難民の受け入れに積極的なオーストリアの首都ウィーンの市議会選挙が11日、投開票された。民族主義的な極右政党のオーストリア自由党の得票率が31%と過去最高に達した。シリアなどから大勢の難民が押し寄せることに不安を感じる有権者から票を集め、5年前の前回選挙よりも得票率を5.3%も上乗せした。オーストリアは冷戦時代に中立国で1956年のハンガリー動乱や1990年代の旧ユーゴスラビア内戦の際には多くの難民を引き受けたことがある。そんな経験がある国でも最近の急ピッチの難民流入に反感が広がっていることを裏付けた。
ウィーンはオーストリア社会民主党が強い「左派王国」で戦後は一貫して中道左派が主体の市政運営だった。今回は大勢の難民が流入するなかでの大型地方選となり、「赤いウィーン」で極右がどこまで台頭するかが注目されていた。
公共放送ORFなどによると11日深夜時点で自由党の得票率は31%となり、第1党の社民党(得票率39.5%)に迫った。
欧州で極右といえば「教養のない乱暴者」というイメージがある。それゆえ自由党は選挙戦で難民排斥や外国人蔑視を連呼するなどのアジテーションを控える「ソフト路線」を打ち出した。そのカムフラージュが功を奏し、農村部の住民や都市部の中低所得者など民族主義の伝統的な支持者のほかに、既存の大政党に飽き足らない有権者や、難民・移民に不安を持つ人たちの票を集めたとみられる。
投票前には極右・自由党が第1党となり、市長ポストを得るとの世論調査もあった。ただ選挙戦の終盤になって危機感を持った社民党が巻き返し、第1党の座を守った。ウィーンに「極右市長」が誕生するのを避けたいという心理が有権者に働き、極右の地滑り的な勝利をなんとか阻んだ。社民党は、引き続き環境政党の緑の党と協力して市政を運営する見通し。注目度が高い選挙戦になったため、投票率は74%と1980年代前半以来の高い水準となった。
極右政党やその支持者の社会的な地位は低く、政治的なリーダーシップがあるわけではない。今回の選挙結果が国政に影響し、オーストリアが難民の受け入れを停止することも考えにくい。だが市議会での極右台頭は、難民に寛容なオーストリアのなかで最も開明的な大都市のウィーンですら不安が台頭し、世論が割れていることを意味する。