インドネシアの大統領に就任した1年前、ジョコ・ウィドド氏は腐敗と無縁の堅実派で、東南アジア最大の同国経済が必要とする改革にうってつけの人物という評判だった。ジョコウィの通称で呼ばれるジョコ氏の台頭はまた、政治支配層の転換を画するものでもあった。元家具商のジョコ氏は、1998年に失脚した独裁者スハルト氏とつながりのない初の大統領だった。
■支持率低迷 46%へ
森林火災の現場を視察するインドネシアのジョコ大統領=中央。煙害は周辺国に広がっている(9日)=ロイター
しかし、ジョコ氏の大統領選勝利を取り巻いた期待は、やはり昨年インドで有権者を熱狂させて総選挙に勝利した改革派の首相、ナレンドラ・モディ氏と同じように後退している。ジョコ氏の名声の陰りを示す一側面が支持率の低下だ。大統領の支持率は3月の57%から9月の46%へと低下している。
支持率が50%を割っても壊滅的事態ではないが、この不満の理由が語るものは大きい。インドネシアの国民は消費者物価の上昇、通貨ルピアの下落、低水準の雇用創出を心配しているだけでなく、ジョコ氏は腐敗との戦い、配下の閣僚の統率に失敗していると受け止めて幻滅を感じている。
物価や通貨の問題よりも、この国民の判断のほうが重大だ。インドネシアの経済的問題の大部分は商品相場の低迷に起因し、このことは程度の差こそあれ、減退に転じた中国の工業需要に原材料を供給する国々の大半に共通している。しかし、ジョコ氏の統治に対する不満の高まりの原因を、大統領による制御が及ばない外部要因に求めることはできない。
今月に入ってインドネシアの国土の大部分を覆っている白煙は、森林を破壊する違法な野焼きの結果であり、インドネシア政府が価値ある自然資源を守れないままでいることを示す毎年の出来事だ。これは同時に、トランスペアレンシー・インターナショナルによる昨年の世界腐敗認識指数で174カ国中107位の国にあって、政府が腐敗の撲滅を進められずにいることを示してもいる。世界3位の面積をもつ熱帯雨林が昨年約150万ヘクタールも消失したことで、12月にパリで開かれる国連気候変動枠組み条約締約国会議でインドネシアにスポットライトが当てられることになった。
混乱の印象に輪をかけているのが、汚職撲滅委員会(KPK)と国家警察の公然たる対立だ。ジョコ氏は国家警察長官にブディ・グナワン氏を選んで論争を招いたが、KPKはジョコ氏に収賄の疑いがあると述べた。これに対し、国家警察はKPKのバンバン・ウィジョヤント副委員長を逮捕。同氏は、国家警察がKPKをつぶそうとしていると非難した。
■決断力が不足
経済政策についても、決断力の不足がジョコ氏の評判を損ない始めている。今月の燃料価格引き下げの決定が論争を呼んでいるのは、大統領就任直後のジョコ氏が放漫な燃料補助金の廃止を目指して奮闘したからだ。監督当局は、今回の燃料値下げの財源は国営石油会社プルタミナの業務効率改善で賄うと強調しているが、一部補助金の再導入もありうると懸念されている。
ジョコ大統領は、6年ぶりの低水準に成長鈍化した経済の再活性化のための刺激策注入に関しても決意が足りないように見える。この1カ月間の3つの発表は、いずれも法人減税やインフラ支出前倒しのような大型策に欠け、景気信頼感の向上や経済活動の拡大につながるとは考えにくい。
ジョコ氏は今からでもまだ、インドネシアの極めて大きな潜在力から進歩を導き出すことが可能だ。改革者という自らの評判を取り戻すには、腐敗との戦いに大胆な施策を打ち出し、自らの政府に対する統率力を取り戻して経済成長を押し上げる必要がある。
(2015年10月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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