5年前、ミャンマーの軍事政権が恐る恐る民主化への道を歩み始めたとき、どこまで進むのかを疑う見方が多かったのは当然だ。移行はまだ明らかに完了していない。これは軍事政権が政治・経済的な利益を巧みに守りながら進めてきたコントロールされたプロセスだ。だが、何も変わっていないという懐疑派の見方は誤りだ。ミャンマーは5年前とはまるで異なる国だ。以前よりもずっと世界との関わりを深め、抑圧が減り、必ずしも啓発的とはいかないまでも市民社会が発展しつつある。
来月、この民主化のプロセスがもう一歩進められる。同国で半世紀以上ぶりに本当の意味での民主的な総選挙が実施されるのだ。
人々の応援を受けるアウン・サン・スー・チー氏(24日)=ロイター
総選挙は、民族間の分断が多く見られる人口5300万人の同国全土で11月8日に実施されるが、完璧とはほど遠いものになるだろう。軍部が国会で4分の1の議席を自動的に確保し、憲法は野党の党首、アウン・サン・スー・チー氏が大統領になることを実質的に禁じている。憲法は外国籍の子どもを持つ者は大統領になれないと定めており、同氏にはそれに該当する子どもが2人いる。一部の少数民族による世界で最も長い内戦が続く国境地帯に住む多くの人々も投票できない。迫害を受けるイスラム教徒少数民族「ロヒンギャ」の大半もそうだ。
それでも、この選挙は決定的な一歩になる。数十年ぶりに同国の国民は国会の形を決め、そこから次期大統領が出るであろう党を選ぶ機会が与えられたのだ。同国の選挙制度では、国会の両院と軍がそれぞれ副大統領を指名し、その中から国会が大統領を選出する。
議席の4分の1はカーキ色の制服組に確保されているため、国民民主連盟(NLD)が確実に勝つためには議席の67%を得る必要がある。たとえ大々的な不正が行われなかったとしても、NLDに明白な勝利が保証されているわけではなく、現職のテイン・セイン氏がなんとか権力の座に返り咲く可能性はまだある。