日本経済新聞社と、同社が出資するナウキャストは9日「物価から見た日本経済」と題したセミナーを都内で開いた。元日銀理事の早川英男・富士通総研エグゼクティブ・フェローがアベノミクスの成果と課題をテーマに基調講演した。早川氏は毎月勤労統計でみた賃金の伸びが鈍い理由について、現在の労働市場は完全雇用のため、労働市場に新しく入ってくる人は主婦と高齢者が多いと指摘。「主婦や高齢者は賃金レベルも低い上に労働時間も短いため、1人当たりの賃金が下がってしまう」として統計の見た目ほど賃金の伸びは悪くないと説明した。その上で内需が自律的に悪くなる要素はなく、経済の回復基調は続くと述べた。ただ成長率に加速感はなく、2016年度の実質成長率は1%程度、消費者物価上昇率も1%程度にとどまるとの見通しを示した。
金融政策については、「毎月10兆円ずつ国債を買うというやり方は続けられるものではない。どこかの時点で現行の枠組みを変えないといけない局面に来ている」と指摘した。また緩和を縮小する「出口」の過程で金利が上昇すれば日銀が保有する国債の評価額が大きく下がることへの懸念を示した。日銀は保有国債の評価額が下がっても直ちに評価損を計上する必要はないが、利上げで日銀当座預金の超過準備に付く金利(付利)を引き上げれば利子の支払額が多くなり「毎年数兆円の損失が出る」という。早川氏はそうした局面に入る前に財政の一層の健全化が必要だと話した。〔日経QUICKニュース(NQN)〕