東日本大震災で警察官3人が死亡した岩手県警の高田幹部交番(陸前高田市)入り口に掲げていた旭日章が大船渡署(大船渡市)の署長室に残されている。命懸けで市民を救おうとした3人の思いを残そうと、当時の幹部らが保存。津波でぼろぼろになった「警察官の魂」が伝える使命感は、今も色あせることはない。
旭日章は桜の代紋とも呼ばれ、全国の警察共通のシンボルマーク。保存しているのは縦横約30センチで、左半分が無くなりひびも入っている。手に取るとずっしり重い。全壊した交番が解体される2012年9月まで、入り口に残っていた。
9人が勤務していた同交番は地域と協力した防犯活動に熱心で、11年2月、岩手県警では初めて警察庁の「全国優秀交番」に選ばれた。津波が襲ったのは、そのわずか1カ月後だった。
部下を避難させた後、「これからが俺の本当の仕事だ」と言い残し交番に残った所長の高橋俊一警視(当時60)=死亡後警視長に昇進=は3月で定年退職の予定だった。副所長の小林新警部補(当時38)=死亡後警視に昇進=と百鳥憂樹巡査(当時21)=死亡後警部補に昇進=は避難誘導中に津波に流された。百鳥さんは1月に初任地として配属されたばかりだった。
「元気出して前進だ 失敗もまた前進だ」――。震災後、大船渡署員らは高橋所長の座右の銘を書いたシャツやトレーナーを着て仕事に励んだ。高橋所長をよく知る吉田良夫大船渡署長は「住民を第一に考えて前向きに働く姿は警察官のかがみ。われわれはその思いを引き継がなければならない」と力を込める。
高田幹部交番は、今も高台にあるプレハブ建ての仮庁舎住まいが続く。来年3月には、元の位置から約1.5キロ離れた場所に新庁舎が完成。「殉職した3人の魂が宿った旭日章」(吉田署長)も移される予定だ。〔共同〕