ブリヂストンは29日(米国時間)、米著名投資家カール・アイカーン氏と競っていた米タイヤ販売大手ペップ・ボーイズの買収について「買い取り価格を上げない」と発表した。引き上げ合戦で当初の想定より費用が膨らみ、買収を断念した。ペップ社は30日、アイカーン氏と契約を結んだ。ブリヂストンは主力の米国市場での販売網拡大策の練り直しを迫られる。
ブリヂストンは10月、ペップ社と1株15ドル(総額約1000億円)での買収契約を結び、11月にTOB(株式公開買い付け)を始めた。だが12月になってアイカーン氏も買収の意向を表明。ブリヂストンを上回る価格を示し、ブリヂストンも対抗策を打ち出していた。
直近ではブリヂストンの1株17ドルに対して、アイカーン氏が1株18.5ドルでの買い取りを提案。ペップ社は28日にアイカーン氏の提案を「優れている」と表明し、ブリヂストンに対案の提示を求めていた。
仮にブリヂストンが1株18.5ドルでの買収を決めれば200億円規模の追加費用がかかる計算だったが、ブリヂストンの米国子会社は29日(米国時間)、「対抗案を提出しない」と表明した。
ペップ株は今年の夏以降12ドル前後で推移していたが、10月にブリヂストンが買収を発表すると15ドル超まで急伸。市場では買い取り価格の引き上げへの期待から、12月29日の終値は18.94ドルまで上げていた。
ペップ社は30日、ブリヂストンとの契約を破棄し、代わりにアイカーン氏と買収契約を結んだと発表した。株主にアイカーン氏による株式買い付けに応じるよう勧める考えだ。ブリヂストンとペップ社が結んでいた契約には、買収が成立しない場合に違約金が発生する規定があった。アイカーン氏はこれを肩代わりして支払い、ブリヂストンは3950万ドル(約47億円)の違約金を受け取る。
ブリヂストンにとって米国は売上高の約4割を占める重要市場だ。すでに2200店超の販売網を持つが、タイヤ販売シェアは日本と比べると低く、米グッドイヤーや仏ミシュランと拮抗する。「特に乗用車向けタイヤのシェア拡大が課題」(幹部)で、全米に800店を抱えるペップを買収すれば店舗数を一気に4割広げられるはずだった。
日本企業にとって、投資家との対抗でM&A(合併・買収)の断念に追い込まれる事例は珍しい。ただ、グローバル展開を成長戦略の柱に据える企業は増えており、今後は投資家や物言う株主を意識したM&A策が求められそうだ。