北朝鮮が水爆実験に成功したと発表したことは、広島・長崎への原爆投下から70年過ぎてなお核兵器の拡散が世界で止まらない現状を浮き彫りにした。国際社会は第2次世界大戦後、米国や旧ソ連など核保有国を5カ国に限る枠組みを整えたが、核を求める国は後を絶たない。歴史を振り返ると北朝鮮だけでなく、インドやパキスタンなど保有国は増え続けている。
米国が1945年に日本に原爆を投下した後、核は世界に一気に広がった。旧ソ連が49年に核実験を実施したのを皮切りに英国やフランス、中国といった戦勝国が追随した。米ソを中心に開発競争が熱を帯び、甚大な被害をもたらす核戦争の危険性が高まった。そこで核保有をこの5カ国だけに認め、ほかの国に拡散するのを防ぐ「核拡散防止条約(NPT)」が70年に発効した。
NPTが発効した後も、保有国は弾頭数を増やし続けた。こうした「早い者勝ち」の状況を差別的な条約だとして批判したのがインドだ。NPTに加盟せず、74年には核実験を実施した。98年にも実験を繰り返した結果、同国と領土紛争を抱える隣国パキスタンが対抗手段として核実験を強行した。「核が核を呼ぶ」という典型的な拡散シナリオの実例だ。
周辺国と敵対するイスラエルも核保有が確実視されている。NPTへの加盟を拒否し、「中東で核兵器を最初に使う国にはならない」として、核疑惑についても否定も肯定もしない立場を取る。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推定によると、2015年1月時点で80発の核弾頭を持つとされる。
核兵器開発の疑惑を10年以上持たれてきたイランは15年7月、米英ロなど6カ国との最終合意に達した。イランへの経済制裁を解除する見返りに、核兵器の原料となるウランの濃縮活動に制限をかける内容だ。ただ核開発への道が完全に閉ざされたわけではなく、イスラエルが反発している。
国際社会は核の不拡散に向けて一枚岩になれていない。昨年5月に開かれたNPTの再検討会議では、世界各国が軍縮に向けた方策を1カ月にわたって話し合ったが、最終文書を採択できなかった。米国の影響力低下と中国の台頭で世界の勢力図が塗り替わりつつあるなか、核のカードを使って発言力を高めようとする思惑が各国の指導者に働いているからだ。
核実験を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)も米中などが批准せず、発効していない。
歴史を振り返れば核兵器の数は減ってはいる。SIPRIによると15年1月の米国、ロシアの核弾頭保有数はそれぞれ7260、7500発。双方が3万~5万発抱えてにらみ合った冷戦時に比べると軍縮は進んだ。
しかし足元ではロシアのプーチン大統領が14年春のウクライナ危機で「核兵器を使う用意があった」と明言し、核戦力の強化にも動く。中国も核弾頭を増やしているとみられ、保有数の公表はかたくなに拒否する。核保有大国の軍縮が滞れば核を持たない国に核が広がる口実を与えかねない。
イラクやシリアで過激派組織「イスラム国」(IS)などが勢力を広げる中、テロ組織の手に核兵器が渡る危険性を懸念する声も高まっている。