北海道むかわ町周辺に年間を通じて定着している4羽のタンチョウ=2月、深沢博撮影
国の特別天然記念物タンチョウが今冬、北海道の調査で過去最高の1320羽確認された。生息地の住民や環境省の保護活動によって、この30年間で3倍以上に増えた。釧路湿原を中心とした道東地域はすでに、巣が近接したり人里に近くなったりの「過密状態」。春から秋は子育てのために道内各地に分散するつがいもおり、札幌に近い道央地域で越冬も確認された。
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タンチョウは江戸~明治期の開発や乱獲で減少が進み、道が調査を始めた1952年度は、釧路湿原を中心に33羽が確認されただけだった。その後、周辺住民らによる給餌(きゅうじ)や保護活動で徐々に増え、ここ5年間は千羽を超えている。NPO法人「タンチョウ保護研究グループ」(釧路市)の調査では、2015年に1550羽を確認した。
分散傾向は00年代に入ってみられるようになった。タンチョウは毎春、釧路湿原などからその周辺へ、さらに網走市や数百キロ離れた稚内市周辺にまで移動して卵を産み、ヒナを育てている。だが、冬になると湿原や河川が凍って餌がとれず、9割以上が官民の給餌場が集中する道東地域に戻って越冬する。
環境省は、感染症拡大のリスクや農作物被害、交通事故などを減らすため、生息地の分散を促す計画を13年度に策定。かつて生息していた本州への分散も視野に、まずは越冬期に約6割が集まる環境省委託の3カ所の大規模給餌場で餌の量を段階的に減らしている。
札幌から車で2時間足らず、新千歳空港から約30キロ南東のむかわ町周辺。11年春に1組のつがいが初めて飛来し、道央地域で初の越冬地となった。13、14年にはヒナを1羽ずつ育てたが、昨春、2羽のヒナがカメラマンに追い回され、農業用水路に落ちて姿を消した。これを機に、地元の市民団体は「タンチョウ見守り隊」を組織。これまでの「そっと見守る」から「積極的な保護」に活動を切り替えた。
北海道全域に生息していたタンチョウだが、開発などで湿原が減り、現在、道内で生息できるのは2千~3千羽とされる。タンチョウ研究の第一人者、正富宏之さん(84)は「分散化には生息可能な場所の保全が重要。新天地に飛来したタンチョウが、安心して暮らしてゆける環境づくりが生息地拡大のカギになる」と話している。(深沢博、奈良山雅俊)