熊本県などでの一連の地震では、認知症の人も避難生活を余儀なくされている。急な環境の変化や避難所の騒々しさで、混乱した状態になりがちなため、配慮が必要だ。
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介護とわたしたち
東日本大震災(2011年)を経験した宮城県認知症グループホーム協議会の蓬田隆子会長は「避難所でうろうろして困っている」といった相談が寄せられた場合、音などの刺激を減らすため、「ゴタゴタしない隅の方に認知症の人の居場所を作って」と助言する。また、手を握ったり肩を抱いたり、触れあいを大切にすれば、認知症の人の不安を和らげることができるという。
仙台市の認知症介護研究・研修仙台センターは、東日本大震災後、介護事業者らを対象に調査を実施。その結果を踏まえて、「避難所での認知症の人と家族支援ガイド」を作った。
接し方のポイントとして、認知症の人には同じ目線で前からゆっくりとした口調で話しかける▽話はゆっくり聞いて急がせない▽周囲に気をつかう介護者に声をかけ、協力する――などを挙げている。
また、できるだけ混乱を避けるために、個室や要介護者専用のスペースをつくることが望ましいという。同センターの阿部哲也・副センター長は「難しい場合は、段ボールやパーテーションなどで仕切りをつくるだけでも落ち着きにつながる」と話す。
トイレも「排泄(はいせつ)の失敗は精神的な不安に直接つながりやすい」として、余裕を持って介助できるような要介護者専用、または優先のトイレ設置をすすめる。
さらに、できるだけ早く、一時避難場所から福祉避難所などに移れるようにすることも大事だという。阿部副センター長は「環境が整っていない場所での避難生活は、本人や介護する人の健康状態の悪化を招く。一緒にうつれるような支援を進めてほしい」。
認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子研究部長によると、さわり心地がいいタオルや毛布を渡したり、外の空気を吸いに連れ出したり、手足や背中をさすったりするのもいい。また、「片づけなどの役割をお願いし、その人が活躍できる場面をつくると落ち着く人もいる」。
永田部長は「家族はどうか遠慮しすぎないで。周囲に早めに、ちょっと助けてと伝えることが肝心。周りの人は、『大丈夫、気にしないで』と認知症の人と家族にやさしいまなざしを向けてほしい。雰囲気が柔らかくなり、支え合いの空気が生まれるきっかけにもなる」と話している。(畑山敦子、友野賀世)
■避難所にいる認知症の人を支えるには
・専用のスペースを設置
・専用か優先のトイレを設置
・周囲の理解
・顔見知りの人と一緒にいると安心する
・見守る家族や介護職員が休める時間の確保
・できるだけ早く福祉避難所に移動
※認知症介護研究・研修仙台センター、東京センターのガイドから