福之助(中央)が玉乗りを決めると、会場は拍手に包まれた=23日、山口県光市の猿まわし小劇場、三沢敦撮影
熊本地震で被災した熊本県南阿蘇村の劇場で伝統芸能の「猿まわし」を演じてきた猿たちが23日、山口県光市で地震後初めてのチャリティー公演を開いた。劇場の再開や村の復興に向け、各地で公演を重ねる。
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光市の「猿まわし小劇場」。猿の福之助(13)と調教師の笑(えみ)さん(32)、まさる(1)と調教師のKEN(ケン)さん(28)の2組が舞台に登場した。玉乗りなどを披露すると会場は手拍子や爆笑に包まれた。終演後に2匹がざるを持って客席を回ると、次々に義援金が投げ込まれた。
2組が所属する「阿蘇猿まわし劇場」(南阿蘇村)運営会社の村崎英治専務(34)によると、劇場は16日未明の地震で、つり天井の一部が落下。約30匹の猿は無事だったが、えさの野菜や果物が不足し、支援物資のパンでしのぐ生活が4日ほど続いた。再開のめどは立っていないという。
猿まわしは千年の歴史があるとされる伝統芸能。1960年代に一時消滅したが、英治さんの祖父義正さん(故人)が光市に「周防猿まわしの会」をつくり、77年に復活させた。今は光市の小劇場のほか、南阿蘇村と山梨・河口湖に専用劇場がある。
南阿蘇の劇場は89年、初の本格的な専用劇場としてオープンした。過ごしやすい気候で猿へのストレスが少なく、繁殖の場でもある。一線で活躍する猿の多くが阿蘇生まれだ。
猿まわしで活躍した後、ソニー「ウォークマン」のCMで「瞑想(めいそう)する猿」として有名になったチョロ松も阿蘇で余生を過ごした。英治さんのおじで調教師の村崎五郎さん(50)は「猿まわしは南阿蘇で力をつけ、育つことができた」。今後も各地でチャリティー公演を重ね、義援金の一部を村の復興に役立ててもらう考えだ。
「阪神・淡路大震災などの被災地で公演した時の被災された方の笑顔が忘れられない。村の人の笑顔が戻る力になれれば」。五郎さんは話す。(土舘聡一、三沢敦)