小尻記者の遺影に献花するために、朝から多くの人が訪れた=3日午前9時48分、兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局、水野義則撮影
兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局で記者2人が殺傷された事件から、3日で29年になった。亡くなった小尻知博記者(当時29)の遺影が置かれた支局1階の拝礼所には市民ら約540人が訪れ、手を合わせた。事件が起きた午後8時15分には渡辺雅隆社長ら朝日新聞関係者約100人が黙禱(もくとう)した。
支局に来た和田貞子さん(83)=大阪府吹田市=は憲法記念日が結婚記念日にあたる。改憲をめぐる論議の高まりに「生活の土台の憲法が揺らいでいる」と感じているという和田さん。支局で開かれた言論の自由を考える「『みる・きく・はなす』はいま」展を見て、圧力に負けず、伝える大切さを実感した。「憲法を守るために私も声をあげようかな」
小学校教諭の井上友里さん(29)=兵庫県西宮市=は平和学習のため、同僚と初めて支局を訪れた。小尻記者が自分と同い年で亡くなったと知り、身近に感じた。言論の自由について教えるため、道徳の授業で襲撃事件をとり上げたいという井上さんは「象徴的な出来事が地元であったことを伝えてたい」と語った。
広島県呉市川尻町の小尻記者の実家では法要が営まれ、近くの墓を朝日新聞社の幹部らが訪れた。墓前で手を合わせた後藤尚雄・大阪本社代表(62)は「小尻君が生きた短い人生と同じ時間が経ったが、犯人はいまだ見つかっていない」と無念さをにじませた。