ねないとオバケがくるよ~
わあ、もう夜10時だ。3歳のわが娘はベッドにも行っていない。「もう寝る時間でしょ」と怒るとグスグス泣く。こんな時に一言。「あ、オバケがあそこに」。サッと表情が変わって「ベッド行く」とボソリ。効果てきめん、助かった。だけど、こんな脅しみたいなしつけで本当にいいの?
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「ねないこだれだ」 作者に聞く
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母子手帳を開くと、育児の解説があった。3歳ごろの叱り方について「なぜいけないのかを丁寧に伝えましょう」と書いてある。怖がらせて言うことを聞かせるのは、きっと違う。
でも、世間の親たちも困っているみたい。言うことを聞かないと恐ろしい形相のオニから電話がかかってくるスマホアプリがはやったり、生々しい地獄絵で「悪いことをするな」と説いた絵本がしつけに効くと話題になったり。共にここ数年のことだ。
■「なまはげ」は巧妙だった
独りで悩んでいてもらちがあかない。専門家に聞いてみることにした。
「なまはげを例に考えてみましょうか」。大日向雅美・恵泉女学園大学長(発達心理学)は、「泣ぐ子はいねがあ」と、恐ろしい化け物に扮して家々を回る民俗行事で説明を始めた。
「子どもはなまはげが来るとおびえますが、両親や祖父母がそばでぎゅっと抱きしめてくれます」。悪いことをすることへの怖さを教えると同時に、守ってくれる身近な人への信頼感が増し、「この人の言うことは聞かなきゃ」となる。巧妙な構造だというのだ。
では、駄々をこねる子どもの目の前に、オニのアプリを親がぬっと突きつけるのはどうか。「親が恐怖を与えるだけの存在になってしまっては、子どもは誰を頼ったらいいんでしょう」
そうは言っても、電車やバスではすぐ静かにさせないと白い目で見られる。大日向さんは「いまの親は大変だと思います。日本社会全体がすぐ結果を出すよう求め、じっくり言い聞かせるのを待ってくれない」。
■親の都合で押しつけてないか
ギスギスした世の中で、頼れる人も近くにいないとオニやオバケの手も借りたくなる。けれど、使い方をきちんと考えたい。では昔の人は、どんな気持ちでオバケなどをしつけに使ったのだろうか。
「食べちゃうぞ、というような意味に由来する『ガモ』『モウコ』などの妖怪は、各地に伝わっています」と民俗学者の飯島吉晴さんは教えてくれた。暗くなって子どもがぐずつくのを止めようと、妖怪を持ちだしたというのだ。
この世のものでない存在を通じたしつけを「自己中心的でない世界観が育まれる」と飯島さんは評価する。
ただ昔は、妖怪がすまう闇への恐怖を子どもだけでなく親もしっかりと共有していた。「親が信じてもいないのに、自分の都合で子どもに押しつけているならば、しつけとしてのリアリティーはないかもしれません」
現代におけるオバケのしつけで思い浮かんだのは、絵本「ねないこだれだ」。夜更かしする子はオバケになって飛んでいく衝撃の結末。1969年の出版から読み継がれている。
作者のせなけいこさんは、しつけのために描いた本ではないときっぱり。子どもにとって、オバケは怖いけれど楽しい存在でもあるという。「親もオバケの世界を一緒に楽しんで、ちょっと現実を忘れてみては」と話す。
いろいろな人に話を聞いて、寝かせるためだけにオバケを召喚していた自分を反省した。これからは、娘と一緒になって、オバケを怖がったり、面白がったりしながら寝床に入ってみよう。(宮本茂頼)