パンを手作りの石窯から取り出す田村陽至さん=金川雄策撮影
精魂込めて作ったパンでも、売れ残れば捨てるしかないのか――。作り方と売り方、そして働き方を変えることで、捨てないパン屋に生まれ変わった店がある。この挑戦は、2030年までの達成を世界が合意した国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」によって社会課題を解決していく取り組みとも重なる。
SDGs 国谷裕子さんと考える
小麦の甘い香りが立ってきた。ゆっくりと温度が下がる石窯で、田舎パン「カンパーニュ」が皮の厚みと香ばしさを増していく。
材料は粉、塩、水だけ。薪の石窯でじっくり焼き込んだ直径30センチのパンは、どっしりと存在感がある。
広島市のパン屋「ブーランジュリ・ドリアン」。パン職人の田村陽至(ようじ)さん(40)と妻芙美(ふみ)さん(36)が二人で営む。ここは、おととしの夏からパンを一個も捨てていない。
12年前に実家の店を継いだとき、経営は厳しかった。リニューアルし、手作りの具にこだわる菓子パンや総菜パンに加えて、天然酵母のパンも始めた。40種類を売り、田村さんは夜10時から翌日夕方まで寝ずにパン作りに追われた。
閉店後、売れ残ったパンを毎日のように捨てた。25リットルの袋が満杯になることもざらだった。「捨てるのおかしいよ」。バイトで働くモンゴル出身の女の子に言われた。自分だっていやだ……でも仕方ない、と思った。食中毒が起きたら店は終わりだろう。
評判の人気店になったものの、コストがかさみ利益は出なかった。若い従業員に給料を満足に渡せず、パン作りを教える時間もない。「このまま10年、20年、次の世代まで続けられる仕事なんだろうか」。自問自答した。
2012年、店を休業し、ヨー…