寄せられた意見
そこに住んでいるかぎり、長い付き合いになる自治会。変えたいと思っても、なかなか意見も言いづらい――。今年2月に社会面で展開した連載「自治会は今」には、そんな声がたくさん寄せられました。何をどうすれば、いまよりもよくなるのか。ヒントを探りに、各地の自治会を訪ねました。
アンケート「働き方、どう変える?」
■定例会は1時間以内で
「多様性の時代にあったやり方を、常に模索しています」とメールをくれたのは、埼玉県吉川市で不動産業を営みながら180世帯ほどの自治会で会長を務める石井亮英さん(33)です。
石井さんが現在の住まいに引っ越したのは6年前。すぐにエリアごとにいる「班長」の役目が回ってきました。数時間かかる月に1度の定例会、運動会、祭り、美化活動、パトロール……。「面倒でしょうがなかった」。でも1年後、次の会長を決める会議では沈黙が続き、「じゃあやります」と手を上げました。
最初は、会長の仕事をこなすのに精いっぱいだったそうですが、2年目からは、仲のいい人同士で同じ担当に就けるよう、役員の立候補制を採り入れました。「あくまでも任意の活動なので」。3年目には、役員や班長の仕事をマニュアル化しました。「大変そう」と尻込みされないよう、担当ごとの年間スケジュールも明記しました。
負担の軽減にも取り組みました。毎月1回の定例会を「年間9回、日曜午前中の1時間」と決めました。時間内に会議を終わらせるために、事前に話し合う内容の資料を配っています。14年からはブログを開設。イベントの告知や防犯情報などを随時アップしています。
常に意識しているのは、「とにかくトラブルを避けること」。年に1回の飲み会は自腹を徹底。国政選挙や市長選挙のたびに、支援者から「後援会に入って」という依頼がありますが、全て断っています。
改革が進んだのは、新興住宅地で自治会の歴史が浅かったことや、自ら汗をかき続けたため「会長が言うなら」と住民が応援してくれたことが大きかったと言います。石井さんは「自治会にはゴールがない。持続可能な活動にするために、70点でいいから、楽しくやることがポイント」と話しています。(田中聡子)
■情報伝え、必ず意思確認
「寄付金を自治会が自動的に集めるのは違法との判決がある。そのほかのいろいろ無理強いするルールも良くない」。三重県亀山市の男性(68)にはそんな気持ちがあり、27戸が加入する古くからの地域の会長だった今年3月末までの2年3カ月の間に、運営方法を見直しました。その際、こまめに住民に情報を伝え、意思確認を徹底したそうです。
たとえば、自治会費年6千円から寄付金に回す内訳を、年始に開く総会の案内文で示すようにしました。赤い羽根共同募金650円、社会福祉協議会の会費300円など。末尾には、「これらは任意によるものですが、便宜的にまとめてお預かりする」と説明。寄付金分は払わないという選択肢を設けましたが、今のところ拒む人はいないそうです。
男性によると、会が自由に使える収入は年約2万円。LED灯を数本交換するだけで赤字に。会費の値上げの話が今後あったら、会費は据え置いて寄付金を減らす提案をするつもりだといいます。
一昨年の市議選では、立候補予定者の後援会長から自治会推薦の依頼がありました。回覧板で「○○氏を推薦して欲しいという依頼がありました。異議がなければ推薦状を渡したいと思う」と尋ねたところ、反対者は出ませんでした。
「自治会と、神社の氏子や市議の後援会という組織は昔は一致していましたが、いまはそうはいかない」。会長を経験し、政治スタンスや家族構成などの多様化に、自治会が対応していく必要があると感じているそうです。そのためには、自治会の事業やルールはできるだけ減らし、緩やかな組織にするのがいいとも。「自治会は面倒くさい面があるかもしれない。でも地域の問題を解決するには、住民がバラバラに声を上げるより、自治会が地域の声として行政などに届けたほうが効果的だと思います」と話しています。(北村有樹子)
■ごみ問題、試行錯誤続く
さいたま市の自治会で副会長を務める自営業の男性(57)からは、「会員以外の方のごみ捨てもお断りしておりません。が、それが当然と思われるのは心外です」との意見が寄せられました。自宅近くにごみ捨て場をつくられるのは誰でも嫌なもの。役員が苦労して確保しているのが都市部の現状です。自治会に入っていない人はごみ集積場を使えるのか。そんな問題を取り上げた記事に、読者から多くの実践例が寄せられました。
たとえば、東京都町田市の会社員、飯村寿一さん(51)は「集積場の掃除当番は自治会員でなくても負担するという条件で合意しました」と、メールを送ってくれました。15年ほど前、新たに造成された宅地の一角には、ごみ集積場も新たに設けられました。すると、隣地の住人たちから「使わせてほしい」という要望が届きました。
飯村さんたちは自治会をつくって管理することにしました。しかし、隣地の住民には、役員が面倒で自治会には入りたくないという意見も。そこで、折り合うポイントとして出てきたのが「掃除」でした。会員も非会員も当番に入ることで、同じ場所にごみを捨てることにしました。
1週間で回す当番表は、自治会役員が作ります。現在、約20軒の会員と数軒の非会員は同じ頻度です。
初代の自治会長を務めた飯村さんは「新しい集積場は宅地の一角とはいえ公有地なので、使うなという権利はない。ただ、負担を分かち合うようにはしたかった」と話します。これまで集積場をめぐるトラブルはほとんどないといいます。
「置き場代年間2400円払っています」と書いてきてくれたのは、山口県下関市の女性(63)です。
11年前にいまの家に引っ越し。前のところでは月500円の自治会費を払っていましたが、今度は月3千円と言われてびっくり。入会を断りました。
しばらくして自治会長が来ました。会合で、会費を払っていない人がごみを出していいのか、と議論になったというのです。会長からは「いくらなら払えますか」。月200円と答え、そう決まりました。
自治会に入らずとも、ごみ出しには困っていません。ただ、払ったお金がどう使われているのかは分かりません。「文句を言うと暮らしにくくなる」。尋ねたいのは我慢しています。(村上研志)
■「“町内会”は義務ですか?」著者・紙屋高雪さんに聞く
全国の自治会関係者から、強制的な活動への不満や、高齢化による負担の増加などの悩みがメールなどで寄せられます。みんな「なんとかしたい」と思っているのに、なかなか改善に向かっていません。
自治会を変えるのはとても大変ですが、まずは「やりたい人が担う」という本来のボランティアの形にすることをおすすめします。「やりたい人が出なかったら困る」という不安もあるでしょう。でも、面倒だと思っていた業務でもやりたい人が出てくることがあります。いなければ、一度やめてしまうのも手です。「やっぱり必要だ」となれば、そのときに考えればいい。やる気のある人が腰を据えて、やりやすい形に変えるのが現実的です。
イベントへの動員や会議への出席、国勢調査員の推薦など、行政関係の依頼があれこれきますが、自治会側が「やりたいことしかやりません」というスタンスになれば、余計なことは頼みづらくなる。そうやって、行政の意識も変えられるかもしれません。実際、私が会長をした自治会では、完全にボランティア制にした結果、行政がらみの会議への出席が減り、依頼が少なくなりました。
業務を減らす時に必ずネックになるのは防犯や防災ですが、やり方を変えるのも一つの手です。たとえば、一斉に見回るのではなく、各自が腕章を着けて散歩をすることを「防犯パトロール」と位置づけている自治会もあります。
自治会の役割は「街をよくしたい」という意識を醸成することだと思います。それさえあれば、日々の生活そのものが助け合いにつながるのではないでしょうか。(聞き手・田中聡子)
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かみや・こうせつ 1970年、愛知県生まれ。京大法学部卒。2010~15年、福岡市で町内会長を務める。
■一人ひとりの声に耳を傾けてみては
今年2月の社会面連載「自治会は今」には300通を超えるメールや手紙が寄せられました。悩みや不満を抱えているのに、ご近所で波風が立つことを恐れて声をあげられない人もいれば、感情論が飛び交う対立の舞台となり、話し合うことすら難しくなった自治会もありました。多くの人がもやもやとしながら、活動しているようです。
そんな中、変えようとしている自治会には、ボランティアなのに時間や労力を惜しまずに、一人ひとりの声に耳を傾け、問題解決に走り回る会長や役員がいました。ごみ置き場に象徴される「ずるい」「不公平」という出口が見えないような問題で、妥協点を見つけた自治会もあります。変えるのは大変な作業ですが、それを乗り越えれば、より多くの人が参加しやすい自治会になるかもしれません。(田中聡子)
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