事件の経過
大阪府茨木市で難病の長女(当時3)を衰弱死させたとして、両親が保護責任者遺棄致死罪に問われた事件で、母親(21)=事件当時19歳=の控訴審第1回公判が8日、大阪高裁(樋口裕晃裁判長)であった。一審・無罪判決を不服として控訴した検察は、同罪より量刑の軽い重過失致死罪の訴因を追加するよう求め、高裁はこの請求を認めた。
難病の3歳長女死亡、母親に無罪判決 大阪地裁
これに対し、弁護側は異議を申し立てたが、高裁は棄却。弁護人は改めて全面無罪を主張した。この日は証拠調べに入らず、閉廷した。
母親は2014年4月以降、全身の筋力が弱い難病「先天性ミオパチー」の長女に十分な栄養を与えないで、病院に連れて行くなどもせず、2カ月後に衰弱死させたとして保護責任者遺棄致死罪で起訴された。
この罪は、低栄養状態と知りながら十分な食事を与えないなど故意がある場合に成立する。公判前整理手続きで検察側は、わずかに注意を払えば結果を防げたといえる場合に適用される重過失致死罪について検討中と説明。大阪地裁は公判で同罪を追加するか確認したが、検察側は必要ないと回答した。
裁判員裁判の一審判決は、毎日接しているとやせ細る過程に気付きにくく、未成年で医師から的確な知識を得ていなかった可能性もあるなどと指摘。故意に保護を怠ったとまでは言えないと判断し、無罪を言い渡した。一方、重過失致死罪については「成立を検討する余地がある」と言及した。
検察側は母親の無罪判決を受け、同罪で起訴して公判前だった父親(24)に対し、重過失致死罪を訴因追加。大阪地裁は保護責任者遺棄には該当しないとしたが、重過失は認め、禁錮1年6カ月執行猶予3年の有罪=父親側が控訴=とした。
このため検察側は今年4月、「母親にも少なくとも重過失致死罪は適用されるべきだ」として訴因追加を求めていた。
閉廷後、母親の弁護人を務める幸田(こうだ)勝利弁護士は「訴因追加の機会はいくらでもあった。控訴審になって認める特段の事情はなく、あの裁判員裁判は何だったのかということにもなる」と批判した。(阿部峻介)
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《元刑事裁判官の木谷明弁護士の話》 訴因の追加や変更は検察の権限だが、いつでも許されるわけではなく、高裁判例で「時期的な限界がある」と考えられている。一審段階の経緯を無視し、判決が悪かったからといって訴因追加するのは被告人が防御する機会を奪う後出しじゃんけんに等しい。事前に主張や証拠を整理する公判前整理手続きの趣旨も無意味にするもので、訴因追加を認めた大阪高裁の判断は不当だ。