性能偽装があった鋼線は多くの製品に使われている
神戸製鋼所は9日、グループ会社製ばね用鋼線の一部が、日本工業規格(JIS)の強度を満たしていない違反があったと発表した。複数の担当者が9年以上にわたってデータを改ざんしていたことが、同社の調査で発覚した。
鋼線を加工してつくられるばねは、家電や給湯器、自動車などの様々な部品として使われている。強度には余裕があり、事故につながる恐れは小さいとしているが、納入先と最終製品の安全性を確認して対応を検討するという。
この鋼線は、グループ会社の神鋼鋼線ステンレス(大阪府泉佐野市)が製造していた。神鋼によると、2007年4月~16年5月に製造した約56トンの鋼線がJISの強度に満たないのに、鋼線ステンレスの担当者が検査証明書に書く試験値を改ざんしていた。製造担当管理職が品質保証の責任者も兼ねており、改ざんが見つかりにくい環境にもあったという。
鋼線は、約40社の取引先に送られてばねに加工されている。現時点で取引先から安全性や品質についてのクレームなどは寄せられていないという。ただ、今後は、ばねを納めた先の企業を含め、品質や安全面で問題が起きていないかどうかを確認する。
神鋼では08年にも子会社のJIS違反があった。このため、グループ全体で類似の違反がないか6月中旬までに総点検するという。梅原尚人副社長は9日の会見で「グループ全体で監査を強化してきただけに非常に残念。調査委員会の意見も聞きながら、徹底的に原因究明し、再発防止策を講じる」と話した。
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9日に東京であった会見の主なやりとりは、次の通り。
――不正発覚の経緯は。
藤井晃二・神鋼鋼線工業社長 「工場では不合格品について話し合う会議が毎日ある。新しい工場長が5月、引っ張り強度の記録に『特採(特別採用)』という言葉があることに疑問を抱き、担当者に確認して発覚した」
――改ざんに関わったのは。
藤井氏 「4人いる。前任者のやり方を引き継いだという趣旨の話をしている。これまでの工場長は事情を理解できていなかった」
――2008年にもJIS違反があったが、なぜまた起きたのか。
梅原尚人・神戸製鋼所副社長 「(当時の不正を受けて)神戸製鋼所が中心となって監査を始めたが、実際にルールをきちんと運用しているのかどうかまでは見ていなかった。社員教育や意識改革も浸透していなかった。第三者の有識者の指導を受け、品質管理体制を見直していく」
――製品の安全性に問題はないのか。
藤井氏 「強度に余裕があり、使用中に折損するリスクは極めて低いと考える。ただ、最終製品の安全性は確認していく」
――処分など責任の明確化については。
梅原氏 「調査した上で判断したい。グループ全体で類似の事案がないかを6月中旬までに総点検する」(西尾邦明)