練習試合で凡打に終わり、険しい表情で監督(左)から指導を受ける開成の大根田璽=さいたま市岩槻区、坂本進撮影
■高校野球・東東京大会
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「野球で勝つのは東大合格より、ずっと難しいと思うんです」
25日に臨んだ練習試合。6番右翼で先発した開成の大根田璽(たくみ)(18)は3打席凡退に終わった。ヤマを張った直球が外れ、変化球に体が泳いでしまった。
受験はほぼ自分との戦いだが、野球は違う。自分たちだけでなく、敵がやりたいこと、やられたくないことを考えなきゃいけない。「そのしのぎ合い。難易度が高いんです」
東大に合格する生徒数が日本一多い超進学校。大半が2年の冬に部活を引退して受験勉強に集中していく中、野球部は夏の大会に向けて猛練習を続けている。
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野球を始めた小学生の頃、甲子園のテレビ中継に釘付けになった。信じられないプレーと展開……。「絶対ないなってことが起こる。理から外れちゃってるスゴイところ」。甲子園への憧れが膨らんだ。開成中で軟式野球部へ。ただ、野球本を読みあさっても、強豪でないチームが目指せるとは思えなかった。そんな時、「開成セオリー」に衝撃を受けた。
青木秀憲監督(45)が編み出した、打ちまくって勝つ独自の戦術だ。守備は捨て、ひたすら打撃練習に特化する。青木は言う。「打撃は波に乗れば1回で大量点が見込める。守備のボロが出る前にドサクサにまぎれてコールド勝ちする」
理にかなっている、と飛び込んだ開成野球。ただ、受験と野球の間でたびたび摩擦があった。
練習試合に負け続けていた1年夏のことだ。「甲子園に行ったら、夏の東大模試受けられねえな。8月まで部活やりたくねえよ」。先輩の発言に大根田は反論した。
「東大は浪人しても入れる。甲子園って、高校生じゃないと行けないですよ」
大根田も、東大へのこだわりは強い。猛勉強して中学から入った開成。毎年、東大の文化祭に行く。農学部で学び、いずれ日本の農業を変えたい。それでも、今は野球に打ち込む。
なぜ東大より甲子園か。「高校野球をやっていたら甲子園を目指さないのはおかしくないですか」
もう一つ。実は開成中の受験を控えた小6の頃、野球をやめた。必死に勉強する同級生の姿に焦ったからだ。「あの時なぜ続けなかったのか」。野球を離れた後悔があった。
最後の夏が迫った6月。
「やばいですよ。この間の校内模試で裏百傑(下位から100番)に入っちゃいました」。東大受験が当たり前の環境で、重圧はびしびし感じている。あきれる親をこう説得した。「野球が終わったら勉強するから。成績は黙っててくれ」
チームメートも思いは変わらない。主将の菅野雅之(18)の成績は真ん中あたり。周囲が机に向かう週末も野球漬け。「反対する親とも時々ガチでケンカする」。受験の出遅れに焦る一方で、野球には強気だ。「勝てる見込みのない勝負をするほどMじゃない。うちのやり方で強豪校を倒せたら最高ですよ」
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開成は夏の大会で、打線が爆発した2005年は16強、12年は4回戦に進んだ。しかし、この3年は初戦敗退が続く。青木は言う。「最近の生徒は真面目になり過ぎている。変なやつが集まった代は快進撃をする。もっと野球に貪欲(どんよく)になり、ギャンブルを仕掛けなければ」
大根田は開成セオリーをチームで最も理解する一人で、今は監督に代わって指示をすることもある。はまった時の打撃は一目置かれている。
最近、肩甲骨まであった長髪をバッサリと切った。甲子園に向けた最後のチャンスへ、ギアを一段階上げた。=敬称略(矢島大輔)
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東・西東京大会に参加する273校へのアンケートや取材で、チームが独自に採り入れている練習方法や戦い方などを聞いた。
練習では「落球の処理に慣れるため、わざとキャッチせずにはじくボール回しをする」(京華)、「木製バットに穴をあけ、その穴にボールを通すように振る。バットの芯を使うため」(北豊島工)など。
戦い方では「バカボンのパパ作戦」(昭和)。失敗しても悔やまず、「これでいいのだ」と前向きに試合に臨む。「チームに運がつくように毎朝トイレ掃除をしている」(世田谷学園)という験担ぎもあった。