チームメートを迎える佐久長聖の安藤選手=兵庫県西宮市の阪神甲子園球場、伊藤進之介撮影
(7日、高校野球 鳴門3―2佐久長聖)
佐久長聖・塩沢、交代初球に痛い失点 好投も援護届かず
甲子園の開幕戦。4万3千人がスタンドを埋め尽くした。佐久長聖(長野)の投手安藤北斗君(3年)には、これまで感じたことがないほどの大きな歓声だった。
先天性感音性難聴で、2歳から人工内耳を付けている。野球好きの父紀之さん(51)は息子に野球をしてほしかった。右打者として死球が当たらないよう、右側頭部に人工内耳を付けた。
小学生の時、難聴を乗り越え三振を奪う、横浜(現日本ハム)の石井裕也投手の活躍をテレビで見た。「自分もプロ選手になりたい」。シニアリーグの先輩が佐久長聖で甲子園に出たのを見てあこがれ、横浜から移り住んで入学した。
長野大会初戦。先発投手として試合前のウォーミングアップ中、人工内耳が汗でぬれて故障してしまった。まったく音が聞こえなくなった。
でも、仲間が支えてくれた。捕手の宮石翔生君(3年)は、右手をまっすぐ胸の前に突き出し、「直球で押していこう」。手のひらを回して「変化球も交ぜる」。最後に右手を握りしめて胸をたたいた。「思いっきり来い」。不安なく投げられた。4回を被安打0、無失点で抑えた。
野球帽のつばの裏には「自分を信じて 仲間を信じろ」と書いてある。打たれることを恐れない。守っている仲間が必ず捕ってくれると信じてマウンドに立ってきた。
初めての甲子園。マウンドに立つのを今か今かと待っていた。だが、二回から登板した塩沢太規君(2年)が好投。安藤君に登板機会はなく、「思い切ってやれ」とベンチでひたすら声をかけ続けた。
1点差まで追い詰めたが及ばなかった。試合終了後、目を真っ赤にしながら言った。「みんな耳が聞こえないからといって特別扱いせずに、接してくれた。ありがとうと言いたい」(鶴信吾)