経済・教育・健康・政治でみた日本の男女格差
3月8日の国際女性デーに向けて、「Dear Girls」という企画を進めています。
国際女性デー特集「Dear Girls」
昨年10月、国際団体「世界経済フォーラム」が男女格差指数を公表しました。日本は144カ国中111位と、前年より悪い結果でした。これは女性議員比率や男女の所得格差など、14項目を比べた指標です。70年も前から制度上は女性でも議員になれるし、働く女性も増えているのに、今も男女格差が縮まらないのはなぜでしょうか。
背景には「意思決定は男性がするもの」「一家の大黒柱は男性、家事・育児を主に担うのは女性」といった考えが、社会の中に根強くあるのではないか。そのことが、女性たちが自分らしく生きることを阻み、次代を担う女の子たちをも縛る「呪い」になっているのでは、と女性記者たちで話し合いました。
次代を担う女の子たちが、性別にとらわれることなく自分らしく生きていけるように応援したい、そして、社会や私たちのなかに潜む「女性はこうあるべきだ」という思い込みに向き合いたいと考えました。
そこでまず1、2月のフォーラム面で「女子力って?」と問いかけ、「女子力」という言葉がまとうようになった、女性に対するさまざまな期待や思い込みについて議論しました。性別を理由にした「らしさ」への期待は、女性のみならず、男性の生きづらさにもつながっていることが見えてきました。
「Dear Girls」では、俳優の山口智子さんや漫画家の西原理恵子さん、モデルのぺこさんら各界で活躍する方々に、自身の経験を踏まえ、女の子たちへのメッセージを寄せてもらいました。インタビュー記事は、朝日新聞デジタルの特集ページ(http://www.asahi.com/special/deargirls/)に随時掲載していきます。(三島あずさ)
■女性だと容姿や服装ばかり…
昨秋、大学生が中心になって、都内で「女性の活躍ってなに?」と題したイベントが開かれました。企画の中心にいた津田塾大3年の溝井萌子さん(21)に聞きました。
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2015年の夏、安全保障関連法案に反対する「SEALDs(シールズ)」の一員として国会前で声を上げました。初めてスピーチした翌日、ツイッターを見て、驚きました。「ブスのくせに人前に出るな」「かわいいですね」。男性メンバーに対する意見はスピーチの内容についてなのに、女性だと容姿や服装についてばかり。「レイプしてやる」と書かれた女性もいました。
応援してくれる人たちやメディアからは「普段はおしゃれを楽しむ普通の女の子」「勉強不足だけど、素直な女子学生」という姿を期待されているのを感じました。私も、それに応えようとしていました。
メンバーにも、すりこまれた意識はあったと思います。私はデモの進行を考える立場でしたが、違憲性など理論的な指摘をする場には男性を、日常生活や感情を語ってもらう場には女性を選びがちでした。「社会に共感してもらい、運動を広めたい」という思いから、なかば無意識のうちに、そして、どこかで戦略的に、期待される役割を演じるようになっていました。
当時は余裕がなかったのですが、時間がたつにつれ、私たちの中の「ジェンダーバイアス」に向き合いたいと考えるようになり、昨秋、都内で仲間たちと「女性の活躍ってなに?」と題したイベントを開きました。電通社員の高橋まつりさんの自殺も、大きなきっかけです。彼女のツイートを読んで、「仕事しろ」「女性らしく」という期待に押しつぶされて苦しむ姿を、将来の自分の姿のように感じました。
社会に期待される役割を生きるのが楽な時もあるでしょう。戦略的に選び取る人がいてもいい。でも、その圧力に耐えきれないほどの苦しみを感じる人がいる社会は絶対に変えないといけない。
子どものころ、母が父に意見を言うと、父が「誰が食わせてやっていると思っているんだ」と返したのを覚えています。専業主婦だった母は黙ってしまいました。
そんな母の姿に、私は「稼いでいないと、男性の劣位に立たされる。将来は家庭に入らず、働き続けるんだ!」と思いましたが、よく考えれば自分の意見を言うのに、お金を稼いでいるかは関係ない。さまざまな事情で外で働いていない人を下に見ていただけです。
ジェンダーを考えることは、女性だけのためではない。女性という視点を介して社会を見ることで、自分の中の思い込みに気付くことが、ひとりひとりが大切にされる社会へのスタートなのではないでしょうか。(聞き手・市川美亜子)
■思い込み、記者にも
「社会に『出る』。女性も女の子も男の子も皆『社会』に存在しているのに、『出る』という日本語の表現が、すごく気になる」
2月14日深夜、「Dear Girls」のツイッターアカウントにそんな指摘が届きました。送り主は、スウェーデンに留学中の大学生の女性(21)。
発端は、ツイッターの私の書き込みでした。読者から「Girls」がどの世代を想定しているのかという問い合わせを受けたのに対し、取材班の一人として「社会に出る前の世代」と伝えました。すると、この指摘が来たのです。
批判のつぶやきは続きます。
「どんなにリベラルでフェミニストでも、働くことを『社会に出る』と言ってしまう。『女性の社会進出』という、言葉の気持ち悪さよ」
ぐうの音も出ませんでした。
若い女性が自分らしく生きられるようにと企画を始めた私自身にもいつの間にか忍び込んだ偏見があると、指摘で気づかされたのです。
大学生はフェイスブックでも、この言葉への違和感をつづっていました。
「男性中心の視点で、働いて稼いでる人が偉い、働いてない人は社会の構成員として認めないという差別的な考え方をめちゃくちゃ端的に表している」
「家事をしている多くの女性、学校に通う子供、出産して働けない女性、障がいで働けない人、退職した高齢者。どんな人も稼いでなくても社会の一員だから」
本人とスカイプで話しました。昨秋から留学先で暮らすうち、日本では疑いもしなかった思い込みがたくさんあることに気づいたそうです。「社会に出る」もその一つでした。
許可を得て「Dear Girls」のフェイスブックページで指摘の経緯を公表し、こうした思い込みや偏見への体験や意見を募りました。共有することで、この国に漂う無意識の思い込み、私たちを縛っている何かが、少しでも見えてくるかも知れないと思ったのです。
横浜市の会社員、川村奈保子さん(41)は、働く女性に囲まれて育ち、誰かに養ってもらおうと感じたことのない自分にもある思い込みに気づき、ショックだったそうです。
「自閉症の息子が小学生だった時、他の障害の女の子を見て『○○ちゃんは結婚して養ってもらえばいいけど、男の子はいい仕事に就けないと収入が低くて、家族が養えないと結婚も難しいよなあ』という考えがよぎりました。男の子は働いてなんぼ。女の子はいざとなればオプションがあると思ってしまった。男の子にもオプションはあっていいのに」
社会学を学ぶ大学生の女性からはこんな指摘が来ました。
「若者の恋愛離れがメディアで取り上げられていますが、取り上げ方や記事の切り口に奇異なものへのまなざしを感じます。『恋人の有無』を幸せの尺度とすることに縛られていると思う」
東京都の大学院生、宮田杏奈さん(24)は昨年就職活動した時にバイアスを感じたそうです。
「企業の職員と採用希望者がグループを作って語り合う場で、女子学生が混ざったグループだけ『ワーク・ライフ・バランス(WLB)も気になると思うのでどんどん聞いて下さい』と告げられました。気遣いとは分かりながらも『女の子だから、WLBへの心配や要望が多いだろう』という思い込みを感じました。この手の話はいつも女性職員だけ出てきて、育児と仕事の両立を語る。でもWLBはいまや、性別を問わない課題なのに」
埼玉県の大学3年生、渡辺里奈さん(21)は就職活動で思い込みの壁に直面しています。
「得意な英語をいかそうと海外駐在の可否を企業に質問すると、女性は前例がないと言われました。『治安や生活環境の変化が大きくタフさが必要だから』と。もやもやしました。一部の企業かも知れませんが、海外駐在=男性という思い込みがまだ男女ともにあるのではないかと感じました」(錦光山雅子)
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