定時制高校で授業を受ける男性(手前)。日中の仕事を終え、そのままスーツ姿で学ぶ=東京都、関田航撮影
未婚の母の元に生まれ、住まいを転々として「所在不明」となり、一度も学校に行けないまま大人になったさいたま市の男性(34)が、「父」の名前が戸籍に記載されるよう、「死後認知」の訴えを30日、東京家裁に提起した。いまは都立高校の定時制に通い、来春卒業を予定。父、そして自分は何者かを明らかにし、けじめをつけて社会に出たいという。
戸籍の父の欄は空白だが、家族の中では「父」の存在は明確だ。国会議員の秘書をしており、3歳ごろには一緒に食卓を囲んでいた。母と5歳下の妹との3人暮らしの家にときどき帰り、食事に連れていってくれたり、発売直後のPHSを持たせてくれたりした。
陳述書などによると、父には別に家庭があった。母は認知を求め、父は「認知する」と言いながらしなかった。母は精神的に不安定で働けず、生活費は父が出したがしばしば遅れた。
家賃滞納による立ち退きが何度かあり、小学校への入学はうやむやに。母は学校に行かせたかったが、父は世間体を気にして手続きしなかった。男性は、公園で虫を捕ったり、市販の教材の顕微鏡を組み立てたりして過ごした。窓から見える通学風景に「なんで自分だけ」と思ったという。
9歳ごろから7、8年間は、父が手配したホテルで暮らした。お金をどう工面していたかわからない。男性は食事と清掃以外の時間は部屋にこもり、学習ドリルで勉強した。中学に入学するはずの年には、前に暮らした区が、住民票を削除した。長期間居住実態がなかったためだ。
妹も学校に行かないまま飲食店…