京都市調査
家庭から出る食品ロスをどう減らすかについて昨日、意見やヒントを紹介しました。そうは言っても、各家庭ごとでは難しい面もあります。地域や仲間と一緒にやれば、できることはもっとありそうです。きょうは、そんな仕組みづくりについて、いろいろなところから。
アンケート「食品ロスを減らすには」
そのままでは食品ロスになってしまう食べ物を役立てようという「フードバンク」が注目されています。
印字ミスや納品期限切れなどの食品を引き取り、支援を必要とする人に無償で届ける取り組みです。50年ほど前に米国で始まり、日本でも広がっています。全国で約60団体が活動していると見られます。家庭から提供される分は「フードドライブ」と呼ばれます。
兵庫県芦屋市の認定NPO法人「フードバンク関西」は約70人のボランティアが運営を担っています。
「家庭で捨てられる食品ロスは、フードドライブで救えます」と浅葉めぐみ理事長(68)は言います。初めはイベントをしても「缶詰四つ」ということもあったそうですが、最近は年間を通じて食材を募ってくれる団体も出てきました。7月に芦屋市社会福祉協議会が実施したフードドライブでは、そうめんやレトルト食品、缶詰など78キロ分の食品が届きました。賞味期限の記載のない食品や生鮮食品などは断っています。
「継続して活動していくことで、消費者の意識も変わっていくと思います」と浅葉理事長は話します。
山梨県南アルプス市のNPO法人「フードバンク山梨」(米山けい子理事長)は年1、2回、1~2週間のフードドライブキャンペーンを実施しています。昨年12月には、6.2トンの食品が寄せられました。
同団体が事務局となり、全国フードバンク推進協議会が昨年11月に結成されました。現在17団体が参加しています。米山広明事務局長は「食料は無償で提供されますが、人件費や配送費がかかるので、事業を広げられない団体が多いのが実態です」と、行政の支援や法制度の整備の必要性を訴えます。協議会は、食品を提供したい人に近くのフードバンクの情報なども紹介しています。
農水省によると、国内のフードバンクによる食品ロス削減量は食品ロス全体の0.1%以下ですが、2013年は約4500トンありました。(浜田知宏)
■配布の仕組み整備を
日本最大のフードバンク、セカンドハーベスト・ジャパンのマクジルトン・チャールズ理事長に聞きました。
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食品ロスの削減は悪いことではありません。でも、食品ロス削減にお金や時間をかけている限り、もっと大きな問題が見えてこない。
日本では2千万人が貧困生活にあって、私たちの調査では230万人が満足に食べられずにいます。経済的な理由で1日1食しか食べられない母子家庭や高齢者が大勢います。食べものは十分あるのに、それを届けるインフラがありません。
私たちも、食品の一部受け入れを断っています。問題は、配布先です。出口がなければ受け入れることができない。冷凍廃棄カツの横流し事件以降は、食品メーカーからの提供が増えています。廃棄物処理業者より信頼できるという理由です。だけど、スペースなどのキャパシティーは限られている。
個人からのフードドライブも受け付けていますが、賞味期限切れのものを送ってくる人がいます。寄付すれば使ってくれるかもしれないと。中身は問題なくても、第三者には渡せません。フードバンクは食品ロスを解決する手段ではありません。
だれもが食べものにアクセスできるセーフティーネットを目指しています。ニューヨークには1200カ所、香港にも520カ所、食べ物に困った人への提供場所がありますが、東京は40~50カ所しかない。食べものを有効に使う仕組みが必要です。(聞き手 編集委員・石井徹)
■残り物持ち寄り絶品料理
使うあてのない食材を持ち寄り、おいしい料理に変身させようというイベントが定期的に開かれています。冷蔵庫の残り物をすくい上げるという意味合いで名付けられた「サルベージ・パーティ」。8月下旬に東京都内であった回を訪ねました。
渋谷駅近くの貸しキッチンスペース。食材がなぜ余ったのか、参加者それぞれの説明から始まりました。
「忙しくて朝ご飯を食べないことが続いたら納豆の賞味期限が切れそうに」(男性)。「実家から送ってきたゴーヤーや豆が食べきれない」(女性)。「アメリカ旅行の土産にケールチップスを買ってきたが、もらい手が案外少なかった」(男性)
ほかにも、ズッキーニ、おから、カニ缶、カレールー……。多種多様な食材が集まりました。
これをプロがぶっつけ本番で料理します。今回のシェフ、キムラカズヒロさんは食材を前に「ほんと、むずかしい」。そんなプロの工夫や手際を間近で見るというのもイベントの目的です。アヒージョオイルを熱した鍋にミョウガが入ると「おおっ」と声が上がりました。
2時間足らずで5品が完成。梨とドライトマトのアヒージョ、もずくとわかめのパスタ……。「おいしい」。できたてを食べた参加者の感想には感嘆も交じっていました。
昆布と、サンマのカバ焼き缶を持ってきた女性(33)は「ロスでなくなるどころかごちそうです。残り物を食べるというと良いイメージはないけれど、これなら今度は友だちとやってみたい」。
3年前から月1、2回のペースでイベントを開く「フードサルベージ」の平井巧(さとし)代表理事(36)は「調理を楽しむという意識なら、無理なく家庭での食品再利用の知恵を広げられると思います」。持てあます理由も含め、食品ロスをなくすための気づきを分かち合って帰ってほしいといいます。(村上研志)
■生ごみ→堆肥 地域で循環
捨てられる食品を生かす方法が生ごみの再生利用です。残飯や野菜の皮、果物の芯、魚の骨などから堆肥(たいひ)を作ります。家庭用のコンポスト容器の普及に努めている自治体も少なくありません。
山形県長井市では、市街地の家庭から集めた生ごみで堆肥を作り、郊外の農家に使ってもらう「レインボープラン」を1997年から続けています。台所の生ごみが農地をこやし、農作物となって台所に戻ってくるという循環のしくみです。
生ごみは市中心部の約5200世帯から回収されます。コンポストセンターに運ばれ、牛ふんやもみ殻と合わせ、約80日かけて堆肥になり、郊外の農家に提供されます。
この堆肥を使い、化学肥料や農薬をなるべく減らして栽培した、認定マーク付きの野菜や果物がスーパーや農産物直売所で売られています。市内の小中学校8校の給食で使う米はすべて認証を受けています。
同プランの推進協議会で消費・環境部会長を務める斎藤眞知子さん(64)は「分別にはそれなりに手間がかかります。が、レインボープラン認証の野菜をみると、ああ、うちに返ってきたなと思うんです。食べ物を大事にしようという気持ちが生まれます」と言います。
会長の若林和彦さん(60)は米や大豆の農家です。日本中で大量の食品ロスが発生している現状は、生産者として「本当にもったいない」と感じています。「コストだけを考えれば、生ごみは燃やしてしまった方がいい。でも、それでは食べ物を大事にできません。レインボープランでは消費者も土づくりに参加しています。消費者と生産者が自然につながるしくみです」
プランが始まって20年目。台所で生ごみの分別をしている親たちを見て育った世代が、独立し始めています。事務局の小林美和子さん(45)は「次の世代、子どもの世代にどうやって受け継いでいくかが課題です」と話しています。(吉沢龍彦)
■アンケートに寄せられた声
朝日新聞デジタルのアンケートには、フードバンクやコンポストなどについても声が寄せられました。ほんの一部ですが、抜粋です。
●「食べ物を“捨てる”こと以外にも、選択肢があることを社会に認知させる啓発活動が重要です。その選択肢のひとつが『フードバンク』と言う活動です。余っている食べ物を、困っている人たちへ“おすそわけ”すれば良いではないでしょうか」(東京都・30代男性)
●「健康のために、と思って参加してみた料理教室で、野菜の皮も根も食べられる部分は全部頂くのが肝要、という考えに触れて、とても新鮮に感じるとともに納得しました。以来、無駄をしないよう一層気をつけるようになれたのは収穫でした」(海外・60代女性)
●「こまめに火を通して食べきる。それでも残ったらごめんなさいと言いながら、堆肥(たいひ)用にコンポストに入れる」(神奈川県・80代女性)
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