選挙カーの上から手を振る民進党の蓮舫代表(左)と鈴木庸介氏=15日、東京都練馬区、牛尾梓撮影
小池百合子氏の都知事への転身を受けた衆院東京10区補選(豊島区、練馬区の一部)で、都政で注目を集める小池氏が存在感を放っている。知事選の勢いにあやかりたい自民陣営と、「小池劇場」に巻き込まれまいとする民進陣営。国政選挙本来の争点がかすんでいるとの指摘も出ている。
16日、池袋駅東口。小池氏に続いて安倍晋三首相、自民前職の若狭勝氏(59)=公明推薦=らが現れた。小池氏が壇上から手を振ると、歩道の群衆から「百合子、百合子」のかけ声。警察官が注意しても、立ち止まってスマホをかざす人が相次いだ。
小池氏は「若狭さんの応援なしには都知事選の勝利はなかった。(補選では)一票一票を若狭さんに投じて頂きたい」と演説。自民は都知事選で小池氏と対立したが、安倍首相は「自民党、公明党と小池都政の協力の象徴が若狭勝候補」と持ち上げた。小池氏に手を振った豊島区の小高時子さん(72)は「実行力がある小池さんを応援する。若狭さんにも頑張ってほしい」と話した。
小池氏は7月の知事選で、291万票を集めて与野党の推薦候補に圧勝。就任後は豊洲市場移転や東京五輪・パラリンピック会場の見直しなどに取り組み、メディアで連日報じられている。
若狭陣営幹部は「改革を進める小池氏の勢いはすごい。流れに乗るのが大事」と話す。若狭氏の看板やビラ、たすきなどの色は、知事選で小池氏がイメージカラーに使った緑。選挙カーは「小池都知事誕生の立役者」「除名覚悟で(小池氏を)応援しました」と連呼する。
政治とメディアの関係に詳しい駒沢大学の逢坂巌専任講師は「見事な『小池劇場』。補選がポスト小池の信任投票みたいになっている」と指摘する。
逢坂氏によると、税金の使途に関わる豊洲市場や五輪会場の問題は有権者の共感を呼びやすく、テレビも視聴率がとれるため繰り返し取りあげる。格差問題やアベノミクスなど国政で議論されるはずの争点はかすみがちだ。
「自民VS.民進の構図がねじれ、小池氏中心の都政の問題になっている。与党が『知事の改革に力を』と訴えると、野党は戦いづらいだろう」とみる。
一方、民進新顔の鈴木庸介氏(40)は15日に練馬駅前であった演説会で「誰かの人気投票とか、後任者が誰かという選挙ではない」と若狭陣営を批判。経済政策や年金問題、地域活性化策などを中心に街頭での訴えを重ねている。
課題は知名度。野党4党の統一候補となったものの、公認候補を取り下げた共産の支持者らの間では戸惑いの声も漏れる。
頼みの綱は蓮舫代表だ。小池氏と同じキャスター出身で知名度が高く、7月の参院選東京選挙区では112万票を集めてトップ当選した。代表就任後の9月下旬には都庁で小池氏と面会し、互いにエールを送り合う場面もあった。
練馬駅前での演説会では、蓮舫氏がマイクを握ると集まった有権者から「蓮舫コール」がわき起こった。ただ、陣営幹部は「お互い、有名人頼みの選挙はもうやめましょうよ、と言いたい」と話す。
補選には、幸福実現党員で新顔の吉井利光氏(34)も立候補している。23日に投開票される。(山田知英、牛尾梓)