昨季は26本塁打で新人王、今季は39本塁打のカブスのブライアント=AP
2番最強説――。大リーグでは今、長打を打てる強打者が、打順の2番に座ることが多くなっている。「投高打低」の時代に編み出された得点力アップへの戦術は、25日(日本時間26日)開幕のカブスとインディアンスが戦うワールドシリーズ(WS)でも鍵を握りそうだ。
一回無死一塁。
この場面、セオリー通りならば、犠打や進塁打だろうが、カブスの2番ブライアントは、甘い変化球をとらえ、左越えの適時二塁打を放った。15日のナ・リーグ優勝決定シリーズ第1戦。ドジャースの前田から奪ったこの先取点で、チームを勢いづかせた。
今季、ブライアントはチーム最多の39本塁打を放ち、打率2割9分2厘、102打点。ナ・リーグの最優秀選手(MVP)の最有力で、開幕から主に3番を打っていた。
しかし、7月4日以降、身長196センチ、体重104キロの強打者は2番に固定された。広角に打てるうまさもあるが、走者一塁になると、やたらと勝負強くなる。この場面での公式戦の打率は3割2分2厘で、長打率6割1分6厘。カブスを71年ぶりのワールドシリーズに導いたマドン監督はいう。「時代は変わった。2番には、ボールをかっ飛ばす力のある打者を置きたかったし、走者をかえす能力が大事だと思う」
一方、19年ぶりにワールドシリーズに進出したインディアンスの2番打者は、23本塁打のキプニスだ。身長180センチながらパンチ力は十分で、今季のプレーオフでは2本塁打を放つなど、大きく活躍した。
今や大リーグの2番打者で、2桁本塁打は珍しくない。今季、30球団のうち13球団で、主に2番を担った打者が20本塁打以上を放った。ブルージェイズで今季37本塁打のドナルドソンなど強豪チームになればなるほど、リーグ屈指の強打者が座ることが多くなる。
10年ほど前までは、2番は選球眼が良く、長打よりも小技が利き、好機を広げられる器用な打者が目立った。だが、投手の平均球速は150キロを超え、ここ数年のリーグ全体の1試合平均得点は4点台にとどまるなど、今は「投高打低」の時代だ。その中で、いかに得点の確率を上げるのか。各球団が着目したのが2番の改革だった。
一つは、投手へのプレッシャーだ。特に一回の攻撃。大リーグで監督として662勝したレッズのリグルマン・ベンチコーチは、2番に強打者を置くことで、無死一塁が「得点圏」になると話す。「1番は脚力がある選手が多く、2番の二塁打で生還できる。できなくても、無死二、三塁。得点できる可能性は高まる。大リーグで一回から犠打を指示するチームはほとんどないしね」。犠打を「無駄なアウト」とする考えが広まってきた影響も大きい。今季のリーグ1025犠打は昨季より約150個少なく、5年前から約600個も減っている。
各球団ともに打力が上がり、7、8番の下位打線でも好機を作れるようになったのも影響する。大リーグ公式サイトによると、過去5年間、2番は3番より年間で約17打席多く立ったという。2番に強打者を置けば、わずかだとしても、得点を演出できるという「確率論」もある。
ここ数年、レギュラーシーズンMVPは、2番打者が目立つ。2014年はエンゼルスのトラウト(打率2割8分7厘、36本塁打、111打点)、15年はブルージェイズのドナルドソン(打率2割9分7厘、41本塁打、123打点)が選ばれたのも、「2番最強説」を支え始めている。
ヤンキースのベーブ・ルースを筆頭に「3番最強説」はまだまだ根強いが、「セイバーメトリクス」と呼ばれる統計学手法などで、日々戦術は進化する。ともに長打力がある2番が座るチームが対決するワールドシリーズは、新たな戦い方を定着させるのか、注目されている。(クリーブランド=遠田寛生)