ピコ太郎って
ヒョウ柄のマフラーを巻いたパンチパーマの日本人のおじさんが歌い踊る1分8秒の動画が米国で話題だ。おじさんの名は「ピコ太郎」。何が起きているのか。
サングラスにちょびひげ。こわもての中年男性がネイティブ風に気取って口ずさむ歌詞は「ペン」「アップル」「パイナップル」のほぼ3語のみ。ゲーム音楽のようなメロディーに合わせて軽やかに小さなステップを踏む。
動画「PPAP ペンパイナッポーアッポーペン」が8月にユーチューブで公開されると、米ビルボードのシングルチャート(10月18日発表)で77位になった。女性3人組メタルダンスユニット「BABYMETAL(ベビーメタル)」が今春、アルバムチャートで39位に入ったが、今回は一番花形のシングルチャート。日本人では1990年に松田聖子が米歌手とのデュエットで54位に入って以来26年ぶりになる。
ユーチューブでの再生回数はすでに7千万回超。CDは出していないが、先月から有料配信も始めた。Tシャツなどのグッズ販売もスタート。12月にはアルバム発売も決まった。無料配信がお金もうけに結びつき始めている。
「ミラクルが2万回起こった感じ」。先月末、日本外国特派員協会での会見で、ピコ太郎自身もおどけた。自称・千葉出身のシンガー・ソングライター。ミュージシャンでもある青森出身の芸人・古坂大魔王がプロデュースしていると主張するが、本人がピコ太郎であることは誰が見ても分かる。外国人記者から「安倍首相から日本のスポークスマンになってほしいというオファーはないのか」と問われると、「知らない番号からの電話には出ないようにしています」と絶妙な返しで応じて会場を沸かせた。
■SNSで発信
なぜこんなに人気が出たのか。「恩人」のひとりが、ツイッターで8千万人のフォロワーを持つ米国で人気の歌手ジャスティン・ビーバーだ。彼が「一番大好きなビデオだ」と紹介すると、またたくまに再生回数が伸びた。ピコ太郎のものまねをユーチューブで公開する若者たちも世界中に現れた。
東京・秋葉原で米国人観光客に何が良いのか聞いてみた。中学生のサラ・ネルソンさん(14)は自らピコ太郎をまねた動画をアップした。「ジャスティンが発信した流行に乗れて良い気分。日本はピコ太郎みたいな髪形の人でいっぱいだと思ってたけど、違うんだ」。会社員のアダム・アンダーソンさん(30)は「テレビが大統領選一色で、飽きていた。ゲーム音楽もやくざキャラも日本文化そのもので新鮮だった」という。
米国のポピュラー音楽を研究する慶応大の大和田俊之教授は「中毒性のあるビートと強いキャラクター性が、いま米国で売れるための必須条件。ピコ太郎は見事に兼ね備えている」と分析する。米国でも人気の漫画「ワンピース」のキャラクター「黄猿」に似ていると指摘する声も多い。
ビルボードがランキングの出し方を2013年に変えたことも追い風となった。かつてはCDの売り上げやラジオで流れた回数などから集計していたが、ユーチューブや有料の聞き放題サービスでの再生回数も評価の指標に加えたからだ。外国人の素人にもチャンスが来たことになる。
音楽市場アナリストの臼井孝さんは、ピコ太郎は、お金を払わなくても楽曲を楽しめる時代の象徴だと見る。「『売れている』曲ではなく『受けている』曲が何かを探ろうとするビルボードだからこそ、ピコ太郎に光が当たった。実売数でカウントしている日本のオリコンチャート方式ではあり得なかった現象でしょう」(江戸川夏樹、田玉恵美)