くりん豚(右)とその子豚たち。左は世話をする知久隆文さん=喬木村
9日に開票された米大統領選の結果に、長野県喬木村の畜産関係者が残念がっている。村内の特産豚肉は、その名も「くりん豚(とん)」。ヒラリー・クリントン氏が当選すれば、同じ読みのよしみで東京の米国大使館に1頭分の精肉を贈呈する準備を進めていたからだ。
くりん豚は養豚業の知久(ちく)さん(45)が2010年につくったブランド豚。村花のクリンソウにちなみ、当時は国務長官だったクリントン氏との語呂合わせがヒントになった。
今回の大統領選。知久さんも会員になっている地域産業振興のNPO法人「たかぎ」で「クリントンさんが当選したら、くりん豚をお祝いに贈ろう」という話が持ち上がった。田中生輝事務局長(58)が10月、ケネディ駐日大使あてに贈呈希望の手紙を出すと、館員から「大使にお伝えします」と電話があった。
田中さんは「良い感触」と受け止め、8年前にオバマ大統領の初当選で福井県小浜市に起きたブーム再現の夢も描いていた。
くりん豚1頭の体重は120キロ。精肉だと45キロになる。「まず大使館で食べていただき、大統領就任後の来日で食材に提供できれば最高だった」と田中さん。実現には至らず「選挙結果ですから仕方ありませんが、一石を投じるアピールはできたと思います」。
村内では養豚業の将来性を危ぶみ、廃業も相次いできた。危機感から競争力に富む豚の必要性を痛感した知久さんは研究を重ねた。
イモとコメの配合に工夫をこらした高性能の飼料と伊那山地の良質な地下水を用いることで付加価値を高め、豚肉ぎらいの子どもや女性に好まれる肉質になったという。知久さんが1年間に出荷する3500頭の豚のうち、くりん豚は千頭。「ギトギトした食感がなく、しかし、うまみはある。それが、くりん豚の特色です」と話している。(山田雄一)