旧来メディアの影響力が落ちている
トランプ大統領という「怪物」を生み出したのはメディアだった。過激な発言をひっきりなしに取り上げたあげく、その本人に「最も腐敗した既得権層」と敵視され、切り捨てられた。ソーシャルメディアに押し上げられた人気を読み切れず、新聞など伝統的なメディアへの信頼度は地に落ちた。米大統領選が終わった今、メディアの役割が改めて問われている。
「トランプ王国」を行く
■ネガティブ報道後、対応一変
テレビの人気リアリティー番組「アプレンティス」で司会役を務め、プロレスのリング上でレスラー顔負けのパフォーマンスを繰り広げる――。そんな実業家が繰り出す過激な発言は、テレビ各局にとって昨年6月の立候補表明直後から、高い視聴率を稼げる「キラーコンテンツ」になった。
特にケーブルテレビのCNNは、トランプ氏の会見や集会の中継を続けた。
米公共ラジオ(NPR)によると、視聴者の高い関心を反映して、CNNのテレビとデジタルをあわせた広告収入は通常の選挙の年よりも1億ドル増える見通しという。
トランプ氏の側も、積極的にテレビ局の取材に応じ、会見を頻繁に開いた。長年メディアの取材対象となり、テレビ出演で培った経験と知識をいかした。
今回の選挙で、トランプ氏がメディアを通じて得られた宣伝効果は50億ドルに相当するという試算もある。
CNNのジェフ・ザッカー社長は13年に就任する前、NBCでエンターテインメントなどを担当していた。同局で「アプレンティス」の立ち上げにも深く関与。視聴者がトランプ氏に関心を抱く傾向を熟知していたとみられる。
ワシントン・ポスト紙のメディア担当、マーガレット・サリバン氏は10月のコラムで、ザッカー氏についてトランプ氏を躍進させた1人だと指摘。「テレビ局の幹部が視聴率と利益を目指すのは当然だ。しかし、ジャーナリズムは違うのではないか」と批判した。ザッカー氏も10月の講演で「トランプ氏の集会をそのまま放送したのは間違いだったかもしれない」と認めた。
CNNだけではない。
テレビの主要ネットワークの一つ、CBSのレスリー・ムーンベス会長も2月、トランプ現象が視聴者の関心を集めていることを好意的に語っていた。「米国にとって良くないかもしれないが、CBSにとっては全くすばらしい」
ただ、トランプ氏が共和党の大統領候補になることが確実になったころから、メディアの取り上げ方には変化が現れた。ハーバード大のトーマス・パターソン教授が分析したところ、政策や過去の発言に注目が集まり、ネガティブな報じ方が多くなったという。
するとトランプ氏は、メディア…