ガイドライン案が示す「同一労働同一賃金」の例
正社員と非正社員の待遇格差を是正する「同一労働同一賃金」の実現に向け、政府は20日、ガイドライン(指針)案をまとめた。賃金や福利厚生に差をつける場合の具体例を「問題となる例」と「問題とならない例」に分類して示し、非正社員の待遇改善を企業に促すことを狙う。ただ、格差是正が実際にどこまで進むかについては疑問も残る。
労使の代表や関係閣僚らが集まるこの日の働き方改革実現会議の会合で、指針案が示された。「非正規(労働)という言葉をこの国から一掃する」。そう訴えてきた安倍晋三首相は、「なんとかして同一労働同一賃金を導入したいと考え続けてきた。正規労働者と非正規労働者の間の不合理な待遇差を認めないが、わが国の労働慣行には十分に留意した」と胸を張った。
指針案は基本給、賞与・各種手当、福利厚生、教育訓練・安全管理の4項目について、どんな待遇差のつけ方が「不合理で問題があるのか、否か」を示した。
賃金の骨格となる基本給については、「非正社員の経験・能力が正社員と同一なら同一の支給を、違うなら違いに応じた支給をしなければならない」といった基準を示した。ただ、抽象的な表現が目立ち、「問題となる例」として列挙された項目も限られた。
賞与については、「企業の業績への貢献」に応じて支給する場合、貢献度が同じなのに非正社員には賞与を支払わないことなどを「問題となる例」として挙げた。非正社員に賞与を支払わなかったり、一定の低額しか支給しなかったりする企業は少なくない。こうした待遇は今後、見直しを迫られる可能性がある。
通勤手当や出張旅費、慶弔休暇などでは待遇差を認めず、正社員か非正社員かの雇用形態にかかわらず「同一の支給・付与をしなければならない」とした。
労働組合の中央組織・連合は、待遇差をつける根拠を働き手などに説明する使用者の責任を大幅に強化するよう求めてきたが、指針案には明記されなかった。
指針に法的拘束力はない。企業が格差是正に取り組むよう指針に実効性を持たせるため、政府は関連法を改正する方針。指針は改正法の施行と同時に効力を持つ予定だ。格差是正が進むかどうかは、今後の法改正の行方次第の面もあり、現時点では不透明だ。
指針案に従う企業が、待遇格差をつける理由を説明しやすくするため、正社員と非正社員の仕事や役割をはっきり分ける「職務分離」が広がり、「かえって格差が固定化する」といった懸念も出ている。非正社員の賃上げに伴って、正社員の賃金水準が引き下げられる可能性もある。(千葉卓朗、高橋健次郎)