米メディアが、トランプ政権の報じ方で苦心をしている。大統領は自らに批判的なメディアを「偽ニュース」と呼び、側近は事実と異なる主張が「もう一つの事実だ」と開き直る。「ウソ」を正当化するような異例の政権とどう向き合うのか。メディアも問われている。
特集:トランプ大統領
トランプ氏は就任から今月9日までの3週間、自身のツイッターで計118回発信している。うち約13%にあたる15回をメディア批判に費やし、「偽ニュース」という表現を何回も用いている。
「偽ニュース」は元々、大統領選の時にネットで広まったでっち上げのニュースを指していた。しかし、トランプ氏は「否定的な世論調査は偽ニュースだ」とも発信し、都合の悪い報道を「虚偽」と決めつけている。
「私はメディアと戦争している」とするトランプ氏。就任式で、8年前に180万人を集めたオバマ前大統領の時と比べて「3分の1ほど」と報じられると、「150万人いるように見えた」と反論した。ホワイトハウスのスパイサー報道官も「過去最高だった」と主張し、「メディアはトランプ政権の責任を問うとしているが、我々もメディアの責任を問う」と宣言した。
しかし、スパイサー氏が根拠としてあげた地下鉄の乗車人数や、過去の警備との違いなどはいずれも事実と異なっていた。すると、コンウェイ大統領顧問がテレビ番組で「オルタナティブ・ファクト(代替の事実、もう一つの事実)を提示している」と擁護した。
側近のスティーブン・バノン大統領上級顧問も先月、ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューでメディアを「野党」と表現し、「しばらく黙って聞いていた方がいい」となじった。
政権の強気の姿勢の背景には、メディアに対する信頼がかつてないほど低下していることがある。ギャラップ社の昨年9月の調査で、メディアを信用していると答えた人は過去最低の32%。先月29日にFOXニュースに出演したコンウェイ氏は「選挙では有権者はエリートを拒絶した」「メディアの偏った報道は我々を助ける」などと発言した。
■「虚偽」「ウソ」強い表現で指摘
米メディアも政権に対して強い表現を使っている。
「私たちは偽ニュースなのか? CNNは偽ニュースなのか?」。7日、CNNアンカーのジェイク・タッパー氏は、コンウェイ氏へのインタビューで問いただした。「殺人事件の発生率が過去47年で最高」「メディアはテロ事件について報じない」などというトランプ氏の発言は「虚偽」だと指摘し、「ウソ」とも言った。現職大統領に使う表現としては異例だ。
トランプ氏は就任直後に連邦議会幹部らとの会談で「数百万人の不法移民が大統領選で投票したため、全米の総得票数でクリントン氏に負けた」との主張を繰り返した。この際はニューヨーク・タイムズ紙が1面に「トランプ氏、選挙の時のウソを繰り返す」と掲載。他のメディアも「証拠もなく話した」(ワシントン・ポスト)、「虚偽の主張」(USAトゥデー)などと書いた。
一方、こうした表現が増えることを懸念する意見もある。ウォールストリート・ジャーナルのジェラルド・ベーカー編集局長は1月のコラムで「『ウソ』という表現は、意図的にだます意味がある」と指摘し、トランプ氏の真意がわからない中では、使うことに抵抗があると説明。政治家の発言について「ウソ」を当たり前に使うと、読者から党派色があるとみられ、客観性に対する信頼を失うと心配した。
ニューヨーカー誌のデビッド・レムニック編集長は1月25日にあったイベントで、ロシアでの取材経験などを振り返り「社会的な規範は想像する以上に壊れやすい。今は緊急事態だ」と述べ、メディアがこれまで以上に力を入れてトランプ政権について報道をする必要があると強調した。同時に、「選挙期間中にも資質に関する報道が多くあったにもかかわらず、トランプ氏が勝利した」と語り、報道の受け止められ方も問われていると認めた。(ニューヨーク=中井大助)