朝日新聞デジタルのアンケート
貧困状態にある子どもを、社会は支えるべきなのでしょうか。支えるとしたら、いつまで。朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた千件を超す回答から考えます。子どもの貧困を放置した場合の社会的損失を推計し、貧困対策がひとごとではないと経済界に投げかけた、日本財団の青柳光昌さん(49)に話を聞きました。
【アンケート】子どもの貧困、支援策は?
■大学教育まで保証を
アンケートの「貧困状態の子どもを社会はいつまで支える?」の質問に、働いて自立するまで・大学卒業まで・成人するまで、と答えた人たちの声です。
【働いて自立するまで】
●「私自身10年以上前に自営業の夫を亡くし、大学生の長男と4月から大学生になる長女を何とか育ててきました。母子家庭となってからはとても大変で、せっかく時間を増やしてもらったパートの仕事も子供の病気で休まなければならなかったりして、結局あてにならないからと仕事量も減らされました。なけなしの貯金を切り崩しながら生活して、とても不安な毎日でした。4月から大学生2人分の学費の負担が重なります。この1年を何とか乗り切れるように頑張らなければ……」(静岡県・50代女性)
●「私の両親は、戦後中卒で集団就職で上京し働いていました。まともな教育を受けておらず、常識もあまりなかったように思います。私が中学3年の時、けんかばかりしてた親が離婚。その後私は、高校を中退し親の元を離れ働きました。もちろん中卒では仕事が無く、やはり貧乏。中卒でも受けられる電話交換手の免許を取り、その後やはり高卒になろうと、通信制高校に入学。いつまでも貧乏はついて来ます。自立出来るまでの支援が受けられれば、とてもうれしい」(静岡県・50代女性)
●「定時制高校に勤務しています。生徒たちは、ダブル・トリプルワークして、家庭の生活費を賄っています。お金がないために、高等教育への進学をあきらめる生徒は、定時制のみならず、全日制にもたくさんいます。青年がお金がないことで、将来の希望を失うことのない社会にしていきたいです」(北海道・50代男性)
【大学卒業まで】
●「貧困の責任のない子供の将来は一定以上担保されるべき。特に貧困で奪われる可能性のある教育については現在では大学教育を完了するまで保証されることが求められると思う。子供の幸せ、自立を願う親だけでなく、将来の納税者、有権者として社会の一員を育てる意味でも社会も同様に最低限の生活や教育には責任を持ってしかるべきと考える」(東京都・30代女性)
●「お金のない状態で子供を持つことを決めたのは親ですが、親の自助努力では生活を変えられないからこその貧困の連鎖だと思います。親の責任、ということになれば『子供に家庭環境が連鎖するから子供は諦めよう』となるのは明白で、だからこそ少子化になっているのではないですか。将来子供を持つ気はありません。自分自身が貧困だからです」(大阪府・10代女性)
【成人するまで】
●「自己責任、と突き放したら社会が社会ではなくなるのではないか。日本という共同体の中で生きる以上私たちは助け合うべきだ。日本社会を持続させるためにも子供という将来の可能性に投資すべきであり、私は子供に未来への十分な可能性を与えて個人の力量が存分に発揮出来る社会を望む。長い投資になるだろう。社会全体が子供の教育という大きな投資に手を貸すべきではないか」(埼玉県・10代女性)
●「母子家庭です。3人の子を育てています。確かに離婚は自己責任です。働かない夫を選んだ私が悪い。義務教育までは自治体の援助で何とかやりくりしていましたが、1人高校生になった途端家計は崩壊しました。仕事を変えたばかりです。進学はさせられません。せめて普通自動車免許だけは取らせてあげたいですが……」(北海道・40代女性)
■安易な援助、連鎖の元
支援は義務教育修了・高校卒業まで・社会の支えはいらない、という声です。
【社会の支えはいらない】
●「親に金があり、まともに子供を養育すれば貧困にならないのだから子供の貧困は100%親の責任。仕事を選ばず必死に働き、身の丈に合った生活をし、万が一への備えをしていれば貧困にはならないし、そう頑張っている親が大多数だ。生活保護が連鎖するのは安易に社会的支援をしているからにほかならない。子供にまで支援を行うと、『生きるためには働く』という当たり前のことを教える機会が無くなる。社会が負うべき責任は、安易な援助で貧困を継続させていることである。義務と責任を負わないで権利だけを求める主張は、真面目に働いている者からすると大変腹が立つ。支援は一生に1回だけ、半年限りとし、就労支援と低利の融資程度にすべきだ」(奈良県・30代男性)
●「20年ほど前から『自己責任』が言われ始めたが、こんな社会になるまでみんな『戦後の平等主義が悪い』と、自己責任を大いに受け入れていた。いまさら貧困が問題だなんて、何を言っているのか。当然親のみの責任だ。完全自己責任で黙って貧困を受け入れるべし」(和歌山県・40代男性)
【義務教育修了まで】
●「とりあえず義務教育まで必須として機会を与える。結果を出した子、素質のある子には大学でも大学院でも出すべき」(富山県・20代男性)
【高校卒業まで】
●「少なくても高校卒業はしないと、社会で働くことは厳しいので支えが必要です。親が悪くても子供に罪はありません。全てが親だけの責任でもなく、社会の責任と半々だと考えています。働かないのに恩恵を受けてと考える人の気持ちはわかるけれど、働きたくても働けない人もいます。また、離婚後の貧困も目立ちます。様々な要因が重なり、今があるのではないでしょうか」(東京都・40代女性)
●「高校を卒業するまではしっかりと支援する必要があると思います。大学教育については疑問があります。給付型奨学金に関する議論のさいに奨学金を借りても返せないから給付型奨学金が必要との話をよく聞くのですが、借りても返せないということは、そもそも大学教育が経済的には割に合わなくなってしまっているということなのでしょうか?」(新潟県・50代男性)
■放置すれば社会的損失に 日本財団ソーシャルイノベーション本部・青柳光昌さん
日本では、教育や子育てを語る際、「昔はみんな貧しかった」「私は、もっと頑張った」といった経験論が幅を利かせがちです。しかし今の社会状況や環境をふまえないと、思考が深まりません。
社会的に自立できない人が増えると、みなさんの製品やサービスの顧客になるはずの人、あるいは勤勉な日本の労働者が減るかもしれない。「かわいそうな子ども」を助ける手段ではなく、未来への投資として子どもの貧困対策が重要なのです。
日本財団子どもの貧困対策チームは、子どもの貧困を放置した場合の社会的損失について、2015年12月に推計を発表しました。貧困世帯の子ども(15歳以下)の進学率や中退率が改善された場合に比べ、現状のまま放置された場合、生涯所得は約43兆円、財政収入は約16兆円少なくなる。非正規雇用や無職者の増加、税金や社会保険料の徴収減少、生活保護費などの公的支出の増加などから算出した結果です。
この問題を社会で広く共有してもらうために、特に経済界に目を向けて欲しかった。ビジネスマンには具体的な数字が響くと考え、建設的議論をスタートさせるために金額に置き換えてみました。
困窮家庭の暮らしぶりをいくら紹介しても、「そんな人もいるよね」「寄付すればいいか」で話が止まってしまう。でも、経済界に身を置く人たちならではの貧困対策案があるのではないでしょうか。
「勉強ができない子は社会貢献できないというのか」。ある中小企業の社長の言葉です。この社長は、定時制高校を中退した子を雇っています。従業員3人を相談・指導役につけ、しっかりした職人に育てました。
経済的貧困は孤立を招きます。でも、人とのつながりが希薄で、人を頼った経験の少ない若者を育て、自立を後押しする意識が企業に広がればどうでしょう。
貧困対策とまでは言えなくても、スマホアプリを使った格安教材や、シングルマザー専用のシェアハウスなど、社会貢献としてではなく本業で課題解決に取り組む企業も現れています。
先ほどの推計をきっかけに、経済界も子どもの貧困問題に関心を持ち始めています。子どもの貧困は、自己責任でも他人ごとでもなく、社会を構成するすべての人に関係する。まさに「自分ごと」なのです。(聞き手・中塚久美子)
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