ピアノとドラムに合わせて、補助を受けながら走る動きをする大徳敬祐さん。母容子さんが右手を、父幸博さんが右足を握る=宮崎市清武町の宮崎学園短大
10年前の交通事故で全身まひの状態になった男性のリハビリを、両親や周囲の専門家が支えている。母親は「回復をめざす気持ちは変わらない」。息子の反応に効果を感じている。
「敬ちゃん、ラジオにする? テレビにする? ラジオなら○、テレビなら×ね」
宮崎市内の一軒家。光が差し込むベッドに大徳(だいとく)敬祐(けいすけ)さん(28)が横になっていた。その右手の親指を手のひらに置きながら、母容子さん(60)が声をかけた。じっと見つめ合いながら、親指のわずかな動きを読み取ろうとする。
2006年12月17日。高校3年だった敬祐さんはバイクで転倒し、軽乗用車と衝突した。容子さんと夫幸博さん(61)は集中治療室で18日間、寝泊まりした。一命は取り留めたが、頭部を損傷。それまで野球部で動き回っていた息子は全身まひの状態になった。
退院後はリハビリ設備の整った福岡の病院に入院した。容子さんは仕事を辞め、病院に通いながら介護を学んだ。
自宅に戻ったのは5年前。食事は1日3回、1時間かけてチューブから胃ろうに送る。「同じものを食べている、って共有したい」と自分たちの食べるおかずやだしを溶いて混ぜる。昨年9月の誕生日にはケーキも一緒に食べた。
週末は車いすを押して花を見に行ったり、海に行ったりすることも。事故から10年が過ぎたが、「一緒に回復をめざす気持ちは、いまも全く変わらない」と容子さんは話す。