北海道の離島・奥尻町の新村卓実(しんむら・たかみ)町長(64)が、副町長の田中敦詞氏(58)に、町職員の妻の退職を促していたことが関係者への取材でわかった。「安定した職業で比較的高給である町職員の共働きに批判の声があった」(新村町長)という。
町は3月、同29日に任期満了となる田中氏の再任案を提出したが、議会は反対多数で不同意とした。新村町長によると、町民や町議から田中夫妻の共働きを問題視する意見があり、不同意後に町長が田中氏に「特別職としてけじめを見せてほしい」と妻の退職を促したという。妻は同意したうえで今月上旬に9月末での退職願を提出、再任案は27日の臨時町議会で同意された。
新村町長は「男女共同参画を目指す社会に逆行することは百も承知。町の実情を考え、副町長が仕事をしやすい環境を整える上でやむを得なかった」と話す。田中氏は「副町長は様々な権限を持つので、就任時から町長と話し合ってきたがそのままになっていた」とし、妻の同意を得た上での退職願だったと説明した。
労働法に詳しい北海道大の道幸哲也(てつなり)名誉教授は「妻の業務と夫の副町長としての仕事に具体的な弊害がないのであれば、事実上の退職強要で問題だ」と指摘。一方、地方自治総合研究所の辻山幸宣(たかのぶ)所長は「地方自治は地域の現状に照らし、地域に住む人々の納得を作り出すための努力を続けていくことだ」と一定の理解を示した。町によると、人口2762人(3月末現在)のうち、約150人が町の職員。一般職員の平均年収は538万1千円。「あこがれの職業」と話す島民もいる。(宋潤敏)