全町民の避難が続く福島県双葉町の商店街。町域の96%が帰還困難区域となり、許可がなければ入れない。崩れた建物は放置されたままだ=2月9日、双葉町新山、金居達朗撮影
福島県双葉町に住民がいなくなって、6年になる。東日本大震災による東京電力福島第一原発の事故で、約7千人の住民は全国各地に避難させられた。ふるさとを取り戻す見通しは立たない。町長は「住民が戻ることをあきらめた瞬間、町はなくなる」と語る。
特集:3.11 震災・復興
双葉町には、東京電力福島第一原発がある。2011年3月の原発事故で、町の面積の96%が人の住めない「帰還困難区域」となった。約7千人の町民全員が、北海道から沖縄まで全国38都道府県に散り散りに避難している。
今年の1月19日、双葉町長選挙が告示された。
「これじゃ、やりようねえべな」
解けきらない雪が残る仮設住宅の真ん中で、双葉町長の伊沢史朗(58)は、ただ一人立ち尽くしていた。10分ほど敷地内を歩き回ったが、誰にも会えない。
双葉町役場は、約60キロ南の福島県いわき市に仮住まいしている。ここで立候補を届け出たあと、町民がいるいわき市や郡山市の仮設住宅へ演説に向かった。公職選挙法が禁じる戸別訪問になるので、家々を訪ねることはできない。5時間かけて4カ所を回り、出会えた町民は40人ほどだった。
「本来の地方自治の選挙とはかけ離れている。一人ひとりの町民の声を聞けと言われても、無理だ」
午後5時、無投票で再選が決まった。
「原子力明るい未来のエネルギー」
1988年、双葉町の商店街の入り口に、原発PRの標語を掲げた看板がかけられた。原発事故後に撤去されたが、20年以上、双葉町の人々の生活に溶け込んできた。
60年、福島県が原発誘致を表…